第1回『このミス』大賞 1次通過作品
『花は紅』 清水生成
主人公の麻木は元刑事です。刑事くずれの主人公。それを聞いただけで、なんだ、よくあるハードボイルド小説かあ、なんて声を上げる人もいることでしょう。でも早とちりはしないで。これは、卑しい街を這いずってもなぜか自分だけは汚れずにすむ不思議な私立探偵や、フロイト学説のように拳銃にこだわる暴漢が主人公のありふれた小説ではないのです。まずはじっくり読むことをお勧めしたい。だって冒頭の文章からして魅力的です。
麻木が警察をやめた理由は、内縁関係にあった女性のためでした。その女性・歌那は、かつて売春組織で働いていたときに麻木と出会い、深い仲となっていきました。しかし覚醒剤に心身を蝕まれ、とうとう入院先の病院で縊死(いし)してしまいます。歌那には三歳の子供、柚子がいました。臨時にキャッチバーの店員などをして食いつないでいた麻木ですが、柚子とともに暮らすため、まっとうな職に就く道を選びます。そして偶然にも歌那が死んだ精神病院が雑役の看護士を募集していたため、そこに就職するのです。
以上の導入部からお分かりのとおり、最大の謎は歌那の不自然な死です。その原因はなんだったのでしょうか。麻木はその謎を解くために自らも絡んだ過去の世界へと溯らなければならなくなります。その進め方が奇をてらったものではなくて、まずよろしい。そして同時に柚子という現在を守らなければなりません。なんといっても柚子は、愛する女性がこの世に残した分身なのです。この柚子をめぐる思いが描かれているのもこの小説の素晴らしいところ。要するにばっと地を蹴って跳ぶことが許さない男が、いかに理不尽な悪と対決すべきか、ということがじっくりと描きこまれた小説なのです。日本の警察機構がはらむ問題点や、精神治療の現在についての観察も背景に配され、小説の血肉となっています。北方謙三や志水辰夫の小説が好きな方なら読んで損はないんじゃないかな。
(杉江松恋)















