第20回『このミス』大賞 2次選考選評 大森望

記念すべき第20回で、史上最多の8作品通過!

ついに第20回を迎えた『このミステリーがすごい!』大賞の二次選考は、コロナ禍とオリンピックと猛暑のさなか、リモート会議で行われた。一次選考を通過した23作から、5〜7作に絞るはずが、今回は、史上最多の8作品が二最終選考に駒を進めた。無理してどれか落とすより、20回記念ということで枠を広げようという結論になったわけですが、さすがに最終候補8作は多すぎるので、今回だけの特例としたい。大森以外の最終選考委員のお二人には、負担を増やしてしまってたいへん申し訳ありません。
 その8作については最終候補の選評で書くことになるので、ここでは惜しくも二次選考で敗退した残りの15作について、簡単にコメントする。
 大森がAをつけた中で唯一落選したのは、秋野三明『妻が人を殺しています』。同じ作者の『ぬるま湯にラジオ』のほうも一次選考を通過しており、どちらが残るかの対決になり、多数票を集めた『ぬるま湯にラジオ』に軍配が上がった。主人公は冴えないサラリーマン。高嶺の花としか思えない超絶美人となぜか付き合うことになりトントン拍子で婚約まで漕ぎつけるが、その婚約者が自宅近所の公園で人を殺しているところを目撃。彼女は凄腕の殺し屋だった……と、おそろしくありがちな設定ながら、婚前旅行でフィリピンに行ってからのアクションがなかなか読ませる。どちらかと言えばこちらのほうが一般性が高いと思ったが、『ぬるま湯にラジオ』も悪くないので、多数意見に従った。
 同じく、たいへんリーダビリティは高いものの、設定に既視感がありすぎて落選したのが、伊藤丈太郎『或る一日署長の女』。元アイドルの女性タレントが一日署長をつとめる交通安全イベントの打ち合わせ中に爆発事件が……。文章や構成に粗が目立つものの、実は事件の背後に遠大な計画が――という真相は面白く、ドラマの原作向き。と思ったが、浜辺美波主演の『ピュア!〜一日アイドル署長の事件簿〜』が一昨年放送されたばかりなのでしばらく無理かも。先に最終候補入りを決めた女性アイドル×警察ミステリの柊悠羅『不動の諜者』とネタがかぶったのも不運だった。
 ネタかぶりと言えば、DAi『バーチャルの世界で見た光景』のVtuberネタも、最終に残った南原詠『バーチャリティ・フォール』と共通。消えた配信者の謎に挑む生配信の最中に別の人気配信者から生電話があったりコラボ依頼のメッセージが届いたりしてどんどん事態が動き出す導入は、Vtuber界隈の雰囲気がよく出ている。ところが、謎のハンターに迫っていく過程があまり盛り上がらず、現実サイドの話がウソっぽく見えるのが残念。界隈に興味がある読者なら面白く読めそうだが……。
 題材と書き方がこの賞にあまり向いていないのではと思われるのが、薔薇戦争を題材にしたジュヴナイル風歴史冒険小説『フランダースの犬たち』と、日本史ものの獅子宮敏彦『ククリの小姓 信長謀記』。前者は、ヨーク家の幼い兄弟を守って落ち延びるロードノベルで、ストーリー的にはたいへんよく書けているが、英国史ファンをひきつけるにはライトすぎるし、ライトノベル的に読ませるには史実が邪魔になりそう。後者は、『信長公記』に出てくる謎の人物の正体を解明するという趣向の歴史ミステリーだが、作中の解釈に「おお、なるほど!」という驚きがなく、我田引水に見えてしまう。
 東埜昊『仏もときに幾何学する』は、現代の京都を舞台にした数学+歴史蘊蓄もの。パスカルがらみの話は面白いが、ストーリーもキャラクターも弱い。
 夏目璃子『12月の僕は、7月の君に会いに行く』は、七月隆文『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』をあからさまに意識したタイムリープSFロマンス。1カ月単位でリープするというネタならもう少しうまく生かす方法があるのでは。恋愛小説的にももっと盛り上げてほしいところ。
 クロバマサト『ネコノベル』は、タイトルのとおり、猫が(実は)人間並みの知能を持っているという前提で、主人公の猫が連続殺猫事件の謎を追う。奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』の系列といえなくもないが、ぜんぜんひねりがないので、不自然さが際立つ。メッセージ性が前面に出すぎているのと、話のわりに長すぎるのもマイナス点。
 新田総一『大麻村』は、ドラマ『ブレイキング・バッド』のマリファナ版みたいな話で、前半はリーダビリティ抜群だが、大麻栽培ビジネスの規模が一気に大きくなるあたりで急速にリアリティがなくなる。
 雨地草太郎『少女たちの秒針』はノストラダムスの大予言が世間に広まっている1998年7月に始まる、高校と病院を舞台にした百合ミステリ。こちらもリアリティがもうひとつ。
 以下は、あまり評価できなかった作品。藪坂華依『大学受験殺人事件』は、試験中に体調を崩した別の受験生のために車椅子を貸したらその受験生が屋上から転落死――という導入は快調だが、中盤からは話に無理が目立つ。分量的にも、もう少し肉づけがほしい。
 瓜生雄輝『BURLESQUE ―バーレスク―』は、他人を洗脳・支配する「ソロリクイ」なる特異体質の男をめぐる犯罪サスペンス。設定に新味があるかと思って読みはじめたら、類型を抜け出せていなかった。
 高治博『残照の海』は、タイトルから想像されるとおり、絵に描いたような古典的復讐ハードボイルド。古典的すぎるところに価値を見出す読者もいるかもしれないが、それなら文章をもっとキメてほしい。
 大立風『紅い祝杯は人魚の血』は、館ものの古典的な本格ミステリー。男の下半身が見つかった時点でだれもが最初に考えるだろう可能性を無視して謎をひっぱるとか、ミステリー的にやや筋が悪い。
 岩崎綾『切断』は、文章、キャラクター、プロットのそれぞれについてまだ足りないところが多く、やりたいことに技術が追いついていない。
 といっても、すべて一次選考を通過した作品なので、当然、一定の水準は満たしている。もうひとがんばりというところなので、さらに上を目指してほしい。

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