第19回『このミス』大賞 2次選考選評 大森望

ハイレベルな激戦の結果、商業出版できそうな作品が揃った

 今回、一次通過作を読みながら、「おお、もしかして今年はずいぶんレベルが高いのでは……」と思っていたら、案の定というか、それでもやっぱりというか、二次選考会は推す作品が分かれて激戦に。最終候補作の数は昨年より1本減ったものの、商業出版できそうな作品の数はたぶん前回以上。中でも本命は……と語りはじめると最終選考会に影響しそうなので、通過作6本に対する大森の評価は最終選考の選評を見ていただくとして、惜しくも最終に進めなかった18作についてコメントする。
 今回、大森がAをつけた5本の中で、唯一、二次の壁を突破できなかったのが、阿部考二『赦しのサクラメント』。ワンマン社長の鶴の一声で社員の副業を推進する部署の責任者に抜擢されたヒロインがさまざまな障害に立ち向かう企業小説パートはたいへん楽しい。ただし、そのワンマン社長がヘリコプター内で殺害され、同乗していた3人の役員に容疑が――というミステリパートは、趣向としては悪くないものの、真相がぱっとしない。ミステリとして弱すぎるという反対意見に抵抗しきれなかった。とはいえ、クレーム対応の達人が〝赦し〟ビジネスで驚異的な才能を発揮する展開など、企業コメディとしてはじゅうぶん魅力的なので、なんらかのかたちで世に出ることに期待したい。
 以下、評価順に挙げると、設定のユニークさで目を惹いたのが、小松こまち『死語になる』。古い流行語がキャラ化した奇妙な世界と、国民的アイドルの死亡事件をめぐるミステリだが、こちらは死語の世界と現実世界の結びつきもしくは重なり具合が弱く、うまくブレンドできていないのが惜しい。全体に(死語以外も)ちょっと古い感じがするのもマイナス点で、ギリギリのところで惜しくも脱落した。
 高山佳樹『常山蛇勢』は、元交渉人の刑事が留置場勤務を命じられ、お目付役の美人エリート刑事(ありえないレベル)とコンビを組むB級サスペンス。将棋でメッセージを伝える発想は悪くないが、現状ではさすがに無理がありすぎる。
 響木琢『わかなみゆらむ』は、竜安寺石庭の暗号を核にしたミステリ。手がかりを記したメモとか、ストーリー展開にはご都合主義が目立つが、石庭の謎解きパートはおもしろい。捨てるには惜しい素材が投入されているので、結末を含め、全体を組み立て直してみてほしい。
 冴内城人『静かに眠るドリュアデスの森で』は、花屋の青年と、植物の声が聴ける少女が軸になるライトミステリ。題材は悪くないが、小さくまとまってしまい、インパクト不足。
 和久井透夏『楽しい修羅場の歩き方』は、魅了体質を持つヒロインが事件を解決する連作ミステリ。こちらはキャラが立っていて読みやすいが、「僕」の魅了体質がまったく生かされていないのが難。
 橘伊織『STRANGER’S RACKET』は、ロンドンのブックメーカーに勤務する日本人の元テニスプレーヤーが主人公。ブックメーカーのパートは上々だが、殺人事件の調査で日本に出張したり、新開発のラケットを使って現役復帰を目指したりする展開はさすがに不自然。もっとオカズを減らした方がよかったのでは。
 ……と、このあたりまでは、改稿の出来によっては隠し玉候補か。以下は、(私見では)もうちょっと傷が多い。設定のインパクトだけはあるものの、うまくストーリー展開できていない印象なのが、壱五六『本能寺の変オブ・ザ・デッド』。なんとか独自性を出そうという意気込みが空回りしている感じ。千羽彩広『CVキラー』は、全体にライトすぎるテイストだが、声優養成所の内幕ものとしてはまあまあ面白く読める。邑上主水『放課後は、ジャズ喫茶で謎解きを』はジャズ喫茶を舞台にしたライトミステリ。ジャズの蘊蓄が謎解きの材料になる趣向はちょっとおもしろいが、キャラが立っていないので全体に地味に見える。鹿西絵夢『ダウト・イット ~Doubt It~』は、轢き逃げ発覚を恐れるエリートビジネスマンの主人公に謎のゲームが持ちかけられるという趣向。牽引力はあるものの、全体にB級テイストで、ラストもよくない。
 残り7作は簡単に。瀧本無知『エキストラ』は死者の記憶世界に潜る力を持った〈潜航者〉をめぐるSFミステリ。後半のどんでん返しをもっとうまく見せる工夫が必要。烏丸数人『死神の二律背反』はよくある死神もの。独自のセールスポイントがほしい。鎹ミト『スタンドアローン』も、ダムに沈んだ村とか、タイムカプセルとか、材料が定番すぎる。鈴涼ノ介『嗜虐的世界(サディスティック・ワールド)』は、タイトルどおりの残虐VRゲームもので、いまさら感が強い。西田快『確かに、燃えている』は、個性的と言えば個性的だが、舞台の〝緋の町〟にもう少し説得力を持たせないと話についていけない。白紙乃かるた『いびつな垂蛹』は、プロットが偶然に頼りすぎ。それと、台詞にはもっと気を遣ってほしい。松本央輔『セブンアイランド』は、小笠原を舞台にした『サクラダリセット』(+『階段島』シリーズ)という感じ。ただの劣化コピーにならないような独自のアイデアが必要では。

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