第19回『このミス』大賞 2次選考選評 千街晶之

最終選考の結果が実に楽しみなラインナップ

 本命不在という景気の悪い言葉を使わざるを得なかった昨年から一転、今年は目を引く作品が多かった。降田天・辻堂ゆめ・神家正成・山本巧次・加藤鉄児を世に送り出した第十三回の域に迫るかも知れない。
 まず最終選考に残った作品に言及すると、早くもアフター・コロナの世界を描き、魅力的な主人公たちを躍動させた『悪魔の取り分』、複数の事件を破綻なく同時進行させて気持ちよく騙してくれた『甘美なる作戦』、奇抜な発端とユニークなヒロイン像が印象的な『三つ前の彼』、この三作の作者については即戦力と判断した。ちょっと評価に困ったのが『虐待鑑定 ~秘密基地の亡霊~』で、読ませる力はあるものの、個人的にはややアンフェアではないかと思ったのだが、他の選考委員はそう感じなかったようなので、これについては最終選考での判断に委ねたい。『クロウ・ブレイン』は作品として大きな弱点はないけれども、カラスが登場するサスペンス小説は前例が複数あるので、その点は損をしていると思う。『砂中遺物』はキャラクターにあまり魅力を感じなかったが、アクションの描写と、世界観が作り込まれている点は評価したい。いずれにせよ最終選考の結果が実に楽しみなラインナップであり、個人的には、この中から少なくとも三~四人くらいは作家デビューさせて差し支えないように思う。
 最終に残らなかった作品のうち、私だけが高く評価するかたちになったのが『エキストラ』『CVキラー』。特に前者はフジテレビの「ノイタミナ」あたりでアニメ化すれば話題になりそうな内容で、どんでん返しの連続が圧倒的だっただけに、少々わかりにくい構成が足を引っぱったのが惜しまれる。章立てはあまり細切れにしないほうがいいと思う。後者も見え見えの犯人と思わせておいて裏の真相を用意した構成を評価したが、同意が得られなかった。『わかなみゆらむ』は、竜安寺の石庭に関する謎解きのユニークさは買えるという点で選考委員の評価が一致した。ただ、中世から続く秘密結社の部分は、私は「あり」と判定したけれども評価が分かれた。
『常山蛇勢』は構成に難がある。現在から過去に戻り、また現在に戻るまでが長すぎるのだ。過去の見せ方にもう一工夫あれば評価が上がっていただろう。『確かに、燃えている』『いびつな垂蛹』は、いずれもちょっと歪な魅力がある作品。作者の強い個性は感じられるのだが、それが必ずしも完成度とつながっていないのは問題だろう。『STRANGER’S RACKET』はよくも悪くも無難な作品という印象で、致命的な欠点はないが最終選考に推せるほどのずば抜けた美点もなかった。
 これは作者だけでなく今後この賞に応募予定がある方々にもお伝えしておくと、『死神の二律背反』のように死神が登場する作品というのはそもそも新人賞の応募原稿には山のようにあるので、よほど飛び抜けた出来でなければ高得点は得られない。『スタンドアローン』も同様で、ダムに沈んだ故郷だの、久しぶりに掘り起こされるタイムカプセルだのは新人賞の応募原稿においてありがちな設定だということを記しておく。『赦しのサクラメント』は設定のユニークさのわりに、ミステリーとしての収束は予想の範囲内。『死語になる』も設定は面白いのに、意外とサスペンスが盛り上がらないのが不思議だった。
『セブンアイランド』は、伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』のように架空の島の設定をきっちり作り込んでから展開すべき物語。その手間を惜しんで、実在の島を舞台にされてもミスマッチなだけである。『本能寺の変オブ・ザ・デッド』は、ところどころユニークな奇想が光るし、ただならぬ勢いは感じるものの、そのぶん粗いところも多い。構成と文章にもっと磨きをかけてほしい。『静かに眠るドリュアデスの森で』『楽しい修羅場の歩き方』『放課後は、ジャズ喫茶で謎解きを』には、小説としては楽しめたがミステリーとしては小粒すぎるという共通点がある(特に『静かに眠るドリュアデスの森で』は、作品の独特の世界観には魅力を感じただけに惜しい)。歴代大賞・優秀賞受賞作を読み直してほしい。『嗜虐的世界(サディスティック・ワールド)』は、この目的のためにここまでやるというのが不自然だし、登場人物の心理にも納得できない部分が多い。『ダウト・イット ~Doubt It~』は、とにかく文章のセンスが古すぎるし、ラストの真相もありがちなものだった。

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