第24回『このミス』大賞 1次通過作品 義賊の叫び

日本銀行破綻を目論む、謎の投資家“ロビンフッド”とは?
マーケットを知り尽くした天才投資家が真相究明に挑む
思惑が絡み合うスケールの大きなマネー・サスペンス

『義賊の叫び』蒼生寧宏

 日本がアメリカの要求に従い、友好国以外との外交・貿易を原則停止する「部分鎖国」に踏み切った世界。天才投資家として知られる蓮実亮のもとを、日本銀行国際局の柊響子が訪れる。話によると、日銀の会議室に“ロビンフッド”からの予告状が置かれていたというのだ。悪徳企業や新興国を相手取り、株や債券をショートすることで破綻に追い込む義賊として話題を集める謎の投資家ロビンフッド。その次なるターゲットが本当に日銀だとして、腐っても世界上位の経済大国である日本の中央銀行を破綻に追い込むことなどできるのか。柊から調査を依頼された蓮実は、当初は無下もなく断るも、もし日銀にロビンフッドから狙われるような“弱み”があるなら、それは何か――に興味を掻き立てられ、引き受けることに……。
 大胆な世界観と不可能としか思えないまさかの計画を堂々と扱い、構えの大きさとインパクトは今回読んだなかで断トツ。筆致もクレバーで、クールなキャラ造形、投資や金融についての説明の噛み砕き方、ミステリーとしての手順やキャラクターの印象の変化、そしてついに“ロビンフッド”の正体が明かされて以降(よりふさわしい題名があるようにも思えるが)タイトルの“義賊”に込められた意味が強調される話運びにも好感を覚えた。
 ひとつ気になったのは、「部分鎖国」が行なわれるような世界情勢なら、諜報・防諜の緊張度もさらに高まっているはず。投資家が身分を隠して国を相手に立ち回り、これほど上手く事を運べるものかと思わないでもない。この点はいささか物語の都合が優先されたきらいもあるが、ページをめくらせる力は充分。二次に推す。

(宇田川拓也)

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