第24回『このミス』大賞 1次通過作品 龍犬城の絶対者
北京の紫禁城で日本人の男が
贋作づくりにはげんでいると
腹の肉を削ぎ死亡した宦官が密室で見つかる……
『龍犬城の絶対者』犬丸幸平
一九二〇年。満鉄社員の父を持つ、北京在住の一条剛は、水墨画技術を買われ、紫禁城に住む清朝の廃帝の、水墨画の外国人帝師として雇われる。しかし実際は、城に眠る水墨画を贋作にすり替え、真作を秘密裏に売却し、復辟のための資金を調達する目的で雇われたのだった。一条、皇帝、宦官の翁斎は、贋作作りを開始。身勝手な皇帝に辟易する一条だったが、徐々に友情が芽生えはじめる。その日々のなか、一条は四つの謎に遭遇する。第一の謎、密室だった殺害現場に犯人はどうやって侵入したのか。そして第二、第三、第四の謎とつづく。
「まいりました」。原稿を読み終え、深々と頭を下げた。中国北京の紫禁城に雇われた日本人青年、皇帝、宦官らのとんでもない企みとそこで起きた密室殺人など不可解な事件をめぐる、陰謀渦巻く歴史中華ミステリ。なのだが、意外性あふれる設定にユーモアをまじえた場面ごとの語りの巧さ、そして謎にまつわる展開から憎たらしいほど洒落のめしたラストまで、見事すぎる。書き手は偶然昨年も『1962 流浪の殺人』でわたしが一次通過作に選んだ人で、そのときは作中のリアリティや細部に注文をつけたが、本作もまたおそらく現実にはおよそありえるはずもない大胆な話が終始語られながらも、作者はそれを圧倒的な筆力と虚構の妙でねじ伏せてみせた。いやもうこれ以上は言うまい。文句なしである。
(吉野仁)














