第24回『このミス』大賞 1次通過作品 名探偵・桜野美海子と天国と地獄
無戸籍者たちとその支援者によって作られた擬似家族
新しい家族の形を提唱していたその屋敷が惨劇の舞台に……
『名探偵・桜野美海子と天国と地獄』凛野冥
名探偵・桜野美海子のもとに、人気ミステリー作家の天地総一郎から依頼が届いた。天地は無戸籍者で、無戸籍を肯定する生き方を貫いており、八年前に同じ無戸籍者や支援者たちと新しい形の「家族」を組成したことで知られる。その家族のもとに脅迫状が届いたのだという。
ところが、桜野と記録者の塚場が天地家の屋敷を訪れてまもなく、人為的に起こされたらしい土砂崩れで屋敷ごと埋まってしまう。そして家族のひとりが死体で発見された。それが外部と隔絶された場所で起きる連続殺人事件の始まりだった……。
序盤はずいぶん王道の、言ってしまえば「ありがち」な展開だなと思いながら読んでいた。だが終盤の二段構えの真相には驚かされた。それまであまり効果的に使われているとも思えなかった無戸籍という設定が最後になって生きてくる。そして、それまでのすべてが反転し、あれもこれも伏線だったのかと腑に落ちる構成には唸った。ある場所の存在についてをはじめ細部にアンフェア感がないわけではないが、これは簡単に修正可能だろう。前半も「ありがち」ではあるが、読者を飽きさせずに引っ張るだけのテンポをキープしている。本格ミステリーとしての練度はかなり高い。
ただ、天地総一郎の無戸籍者設定はもう少し詰めた方がいい。小説家という仕事は無戸籍でできると書いているが、印税などの源泉徴収はどう処理しているのか、ベストセラー作家を税務署は放っておくのか、相続権のない家族で土地や屋敷の名義はどうなっているのか。そういった箇所に伏線が仕込まれているのではと思いながら読む読者もいるかもしれない。わずかな変更で充分に対処可能だと思われるので再考願いたい。
(大矢博子)















