第23回『このミス』大賞 1次通過作品 鼠
テロリスト集団と警視庁新組織の白熱の闘い!
様々なアイディアに支えられた攻防で
結末まで一気読みだ!
『鼠』碓氷霜子
最初に示されるテロ行為は、金曜夜の銀座でのテロだ。大音響と共に四丁目交差点の建物が崩壊する。周囲のビルを含め、壁面からはガラスが降り注ぎ、歩道の人々を襲う。阿鼻叫喚。地獄絵図。だが、テロリスト集団「革命共闘会議」が仕掛けていたのは、爆破だけではないことがやがて判明する。革命共闘会議は、テロの現場にドローンを飛ばしてペスト菌を散布していたのだ。しかも多剤耐性を持つように改造されたペスト菌である。発覚時点での感染者は五十八人だったが、その致死性の高さから、社会不安を巻き起こすには十分な人数だった……。
革命共闘会議に対抗するのが、警視庁が新設した「特殊犯罪対策部」である。この組織は、公安部、刑事部、組織犯罪対策部を連携させて動かすべく、指揮を執る役割を担う。その部署の実質的なリーダーが、毒舌だが頭脳の切れは抜群という御影遥警視、三十二歳である。部署の位置付けそのものに加え、御影の性格も、他の既存部署の反感を買うべくして買うような存在であった。メンバーがわずか数人という特殊犯罪対策部に新たに加わったのが、高坂和樹警部である。キャリア四年目の二十七歳だ。
著者は、この高坂を主人公として物語を動かしてくのだが、その基本構造はシンプルである。革命共闘会議と特殊犯罪対策部の攻防だ。金曜夜の爆破テロと多剤耐性ペスト菌を用いたバイオテロ(そして実はもう一つのテロ)を皮切りに、革命共闘会議は様々な手を打っていく。同じ手口を繰り返すのではなく、巧みにアレンジを施して、社会の不安が増すように攻撃を仕掛けてくるのだ。読者としては、不謹慎ではあるが、彼らのプランに感心してしまう。一方で、御影率いる特殊犯罪対策部の動きも適切で機敏だ。既存組織の枠に囚われない御影の対策は実に痛快。両軍の作戦がそれぞれ優れているが故に、読者としては、その攻防に夢中になってしまうのである。
そしてそれが息切れせずに続いていくのだ。著者のスタミナに感服する。テクニックとしては、著者はテロ組織も警察側も一枚岩ではないものとして造形しており、それが予測不可能な変化を生んでいる点を評価したい。単純な攻防に終始せずに物語が進んでいくのである。タイトルにある「鼠」の使い方も、攻防両面で工夫されていてよい。
気になる点としては、題材の新鮮さとエピローグの二点を指摘しておきたい。テロ組織対警察組織という構図は、その出来映えとは別の物差しにおいて、残念ながら新鮮さに欠ける。後者からは続篇の可能性が感じられてしまって、物語の完結感が薄れてしまう。
とはいうものの、全体としては圧倒的な突進力を備えた物語であり、二次選考に値する出来映えであることは確かだ。
(村上貴史)