第23回『このミス』大賞 1次通過作品 夜の歌、ピクシーの歌

聴いた者に死をもたらす、忌まわしい歌
満たされぬ若者たちに秘められた因縁の謎を
学生ユーチューバーと映像作家が追う

『夜の歌、ピクシーの歌』BUNNY GONZO

 聴くと死ぬ歌といえば、自殺者が続出し、ついに世界各国で放送禁止にまでなったハンガリー生まれの曲『暗い日曜日』が有名だが、本作もそうした忌まわしい歌に着想を得た長編作品だ。
 ギフテッドの子供たちが集められた施設のひと夏を描いた二〇〇七年。奇妙な歌を口ずさむ自殺者を目の当たりにした学生ユーチューバーの鉄平と映像作家の唯が、ネットでウワサされるこの不吉な歌の謎を追うことになる二〇二四年。物語は、時間を隔てたふたつのパートで構成されている。
 花凜という名の少女、湖の下の王国、集団自殺といったキーワードや事件が、どのように結びつくのか。この調査の過程で、鉄平と唯も何者かに不吉な歌を聴かされ、七日以内に死ぬ状況へと陥れられてしまうとともに、各々の個人的な痛みやコンプレックスとも向き合うことになり、こうした主要キャラの追い込み方にも好感を覚えた。
 動画配信、暴露、炎上、アイドル、LGBTQなどを通じて描かれる令和の若者たちの満たされない虚しさや激情が、帰る場所のない棄てられた子供たちと重なり、さらに大人たちの都合で虐げられ、命を奪われ続けている世界中の幼き弱者へと向けられていく筆致に、著者の誠実さを感じた。また死をもたらす忌まわしい歌の真相も、胸を締め付けられずにはいられなかった。
 新人賞向きな斬新で突き抜けた魅力よりも手堅さが勝っている印象は否めないが、二次に推したい。

(宇田川拓也)

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