第23回『このミス』大賞 1次通過作品 魔女の鉄槌
その殺人は魔術によるものではない!
魔女を信じる社会での、魔女裁判の行方はいかに……
『魔女の鉄槌』君野新汰
魔術やまじないが存在し、効果を発揮すると信じられている社会での謎解きを描く物語だ。
16世紀の神聖ローマ帝国。法学を学んだローゼンは、リリという少女を連れて旅に出る。立ち寄ったある村では、魔女裁判が開かれようとしていた。水車小屋の管理人を魔術で殺したとして告発されたのは17歳の少女・アン。かつて彼女の母も魔女として告発されて処刑されていた。法学を学んだ者としてアンを審問し、その無実を信じたローゼンは、村の領主に申し出て事件の捜査に挑む。だが、村人たちはアンが魔女だと確信している。調査で得た情報をもとに、ローゼンはアンの無実を証明する仮説を組み立てるが……。
魔女が存在するとされていた社会を舞台に、魔女の不在を前提とした論理で裁判に挑む。仮説の構築、そして解体。魔術が用いられたかのような状況で起きた事件に、ローゼンは魔術によらない解決を提示しようとする。魔女の存在を信じている人々にも受け入れられるような解決を。
ローゼンによる村での捜査と、そこから得られた情報をもとに推理を積み重ねる過程は、けっして派手ではないが十分に読ませるものに仕上がっている。伏線の仕掛け方も丁寧で、再読する楽しみもある。正直なところ、かなり強烈な技を仕掛ける作品であり、物語の畳み方には少々難がある。とはいえ、それも読者に驚きをもたらそうとしたがゆえのこととして、高く評価したい作品だ。
(古山裕樹)