第23回『このミス』大賞 1次通過作品 悪神

北海道の小さな町で起きた事件
エスカレートする事態の先に、壮絶な真相が……

『悪神』松田悠

 北海道の小さな町を舞台にした警察小説である。
 久我は警察官。かつては刑事だったが、今は単身で駐在勤務をしている。数年前に妻を亡くし、一人娘を義理の姉に預けている。ある日、一年前に町に帰ってきた男・高城が首を吊った遺体となって発見された。久我は現場の様子を調べるが、おりしもヒグマが出現したとの通報を受けて、その対応に追われることになる。ヒグマ対策でやって来た猟友会のハンター・皆川は、死んだ高城が勤めていた会社の社長だった。その粗暴な振る舞いに、久我は皆川を警戒する。やがて久我は、かつて同僚だった刑事から、高城に前科があり、かつて暴力団と関わっていたことを知らされる。高城の死は、事件として捜査されることになった……。
 読み応えのある物語だ。小さなできごとの描写を積み重ねて、久我が暮らす町の様子と、そこに暮らす人々の姿を丁寧に描き出している。住人たちの人間模様から、町を覆う不穏な空気までを鮮やかに浮かび上がらせる手際は見事。そして、物語の軸となる事件もまた忘れがたい。自殺と思われた死を皮切りに、事態は徐々にエスカレートする。その過程もまた丁寧に描かれる。
 手堅い描写を土台に、思い切った構成と意外な真相で、ミステリーとしての面白さもしっかり味わえる作品だ。最後に明かされるある真相についてはやや説得力に欠けると感じたが、そんな欠点を差し引いても、十分に楽しめる小説である。

(古山裕樹)

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