第23回『このミス』大賞 1次通過作品 どうせそろそろ死ぬんだし

余命宣告を受けた人々の会で起きた不審な死
殺人だとすれば、なぜわざわざ殺したのか……?

『どうせそろそろ死ぬんだし』夜ノ鮪

 七隈昴は元刑事の探偵。助手の薬院律を連れて、医師の茶山が所有する山奥の別荘を訪れる。茶山が主催する「かげろうの会」は、彼自身を含め、さまざまな病で余命宣告を受けた人々が集う終末期患者の会だ。七隈は探偵としての経験を語るゲストという形で参加する。
 事件が起きたのは二日目の朝だった。会員の一人が描いた絵が何者かに切り刻まれ、さらに会員の一人・賀茂が朝食の時間になっても顔を出さない。閉ざされたドアを開けると、彼はベッドの中だった。医師の茶山たちは、賀茂の死は持病による自然死と結論づける。だが、その結論に納得できない律は、七隈を巻き込んで、会員たちに聞き込みを開始する。
「なぜ、余命宣告を受けた人間をわざわざ殺すのか?」というホワイダニットを提示した物語は、やがて思いもよらない方向に展開する……。
 山奥の別荘で起きる事件だが、別に外部と遮断されているわけではない。人が死ぬ物語だが、居合わせる探偵・七隈の得意分野は実はペット探し。……と、オーソドックスな展開から微妙に外れたところが独特の雰囲気を醸し出す物語だ。意外さという点では申し分ない。それがどんな性質のものかは、残念ながらここには書けないのだが。よくできたミステリーの多くがそうであるように、この作品もまた、読み終えたらすぐに最初から読み直したくなる。一回目は翻弄され、二回目は大胆な伏線の仕掛け方を楽しめる。そういうタイプの作品だ。ただし、大胆さゆえに、物語の畳み方には粗さもある。こういう結末には不満を抱く読者もいるだろう。登場人物の行動に疑問が残る箇所もある。それでも、作者が大いに楽しんで書いたことが伝わってくる作品であり、その洗練された仕掛けを評価したい。

(古山裕樹)

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