第23回『このミス』大賞 1次通過作品 わたくしは探偵を殺します

この世に神がいなければ誰を殺してもかまわないのか
それとも名探偵という名の神がそれを許さないのか

『わたくしは探偵を殺します』緋野義如

 主人公の千賀は、小学校のとき進化論の話を聞いた。それまで聖書を教えられ、世界は神によってつくられたと信じてきたが、じつは人間は進化の結果に誕生したのだということを知る。神がいないのであれば、何をしてもいいはずだと考えた。同級生の女の子に乱暴をしようとして失敗し、車道に突き飛ばして殺してしまう。その罪悪感に堪えきれず、世界に善悪はないという考えにすがるようになる。高校卒業とともに、家を出て、田口という人生を乗っ取り、田口のふりをして犯罪活動に勤しんでいたが、「N銀行連続詐欺事件」で真犯人だと滝川探偵に暴かれ、五年間刑務所に収監された。そこで出所後、滝川探偵の殺害を決意した。しかしそれには自分の犯行だと分からないようにする必要があるため、他人に罪をおわせる形で決行しようとたくらんだ。だが、計画は予想どおりにはいかなかった。
 全編「ですます」調で書かれ、次第にその語りが不気味に思えてくる。ただ最大の欠点は、(真相に触れるので具体的に指摘できないが)登場人物らの関係性が安易につくられているところ。これを含め、リアリティの部分でどこか弱さを覚え、ミステリを成立させるために構築された、こしらえ感、ご都合主義感があちこちにある。そもそも探偵と殺し屋が登場する話自体に現実味のない幼稚さがうかがえ、神だの進化論だのといった世界観も単純すぎるのかもしれないものの、あえてそうした虚構世界をつくり、ゲームとして描いているあたり、独特の味わいが生まれているのだろう。そうした部分を高く評価した。

(吉野仁)

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