第23回『このミス』大賞 1次通過作品 十二人のイカれた人々
目まぐるしい動きと
先の読めない展開で引きずり回される
『十二人のイカれた人々』元本屋
一幕ものの舞台劇のような内容である。人里離れた山中にカラオケボックスがある。そこにさまざまな人々がやってくる、というのが話の骨子だ。集まる人々がみなそれぞれの理由で殺意を抱いており、誰かを殺して死体は人知れず始末してしまおうと考えている。書いてもいいあらすじはここまでだと思う。あとは登場人物の出入りで読ませる内容になっており、Aという出来事が進行しているときにBの関係者がカラオケボックスに入ってくる。その衝突が思わぬ事態を招き、混乱が生じる。AとBの間で駆け引きが起きるようなこともあり、誰が最終的にその場を制すのかがわからないような書き方になっている。よくある細切れの場面転換ではなく、その場にいる者の言動をじっくり描いて、どういう心理かが読者に伝わるように作者は配慮しているので、登場人物に対して感情移入することも多少は可能である。みんな、殺意を抱いたどうかしている犯罪者なんだけど。
描かれているのは、モラルを超越したところで行われる殺人ゲームであり、倫理観を麻痺させて物語に浸るのが正しい読み方といえる。難を言えば、もう少し足がつかないように各人が配慮したほうがいいと思うのだが、そのへんは話運びの軽快さを作者が優先した結果なのだろうか。フランスの心理スリラーに似た味わいを感じた。もう少しキャラクター造形に魅力があればもう少し没入できるのだけど。平板なキャラクターだけでは、こういうプロットは回しきれないと思う。今後の課題ではないだろうか。
活気のある物語運びだけでも十分読ませるのだが、作者はそこにもう一つ大仕掛けを施した。これは、うーん、判断保留。狙いはわかるのだが、ちょっと欲張りすぎではないかという気もする。二次以降で議論のあるところだろう。私は要検討に一票。
(杉江松恋)