第23回『このミス』大賞 1次通過作品 電気犬の見る人間の夢

生命とは何かというSF的思考と
派手なアクションで読ませる

『電気犬の見る人間の夢』金子孝志

 舞台は2059年というからちょっとした未来だ。現在よりもさらにAI技術は進んでおり、アンドロイドが人類に対して叛乱を起こすという事件まで勃発した。そのため、自己学習機能を備えたAIアンドロイドの開発が禁止されているのである。人と機械を分けるものは何かという問いが物語の根底にあることは、最初から示されている。
 物語は幽霊屋敷と呼ばれる空き家で二人の惨殺死体が発見されることから始まる。この二人は窃盗犯で、禁止されているタイプのメモリを所持していたことから、その取締りにあたっている捜査官の桐谷トウリが捜査に加わることになる。前半部は警察小説の展開で、何が起きているのか、という状況の謎がトウリによって少しずつ暴かれていくことになる。
 中盤に差し掛かったところで物語は激しく動き始める。この世界ではイヌ科の動物が感染するウイルスが爆発的に流行したために犬がほぼ絶滅状態にあり、愛玩用に電気犬が開発されているのである。題名にもある、この電気犬が目を引くギミックとして登場し、読者の興味をさらっていく。アクションの描き方もそうなのだが、アイデアを物語の中で活かすやり方に感心させられるのである。それ自体は他にもありそうなものだが、きちんと状況設定をして、主人公を状況の中に巻き込みながら描かれると、作者の語りについ引き込まれてしまう。ここで完全に話の虜になって、あとは大団円まで一気読みだった。エンターテインメントとして、後半が大いに盛り上がる点も評価したい。
 SFアクション小説ではあるが、謎の要素で引っ張っていく物語運びなどミステリーとしても十分に楽しめる。着想にリアリティの衣をまとわせるやり方も手慣れたもので、これは書ける人だと確信した。もう少し現実に近いものも読んでみたい気がする。

(杉江松恋)

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