第23回『このミス』大賞 1次通過作品 わたしを殺した優しい色
前世で誰かに殺された女子大生が
思い出す「見覚え」を頼りに
うらぶれた中年男が謎を解く
『わたしを殺した優しい色』瀧井悠
アラーキーこと荒木透は、かつて新宿で素人女性を売りにした水商売の店を経営していた。だが従業員の女の子・加藤千尋が奥多摩山中で殺された事件をきっかけに店を閉じ、30年を経て町田の歓楽街の案内所の仕事についていた。そんな彼の前に不思議な女子大生・三谷桃子が現れた。彼女は前世で誰かに殺された記憶があるのだという。アラーキーは桃子の発言から千尋の生まれ変わりだと確信。見つからないままになっていた千尋殺しの犯人を突き止める決心をする。桃子は前世での知り合いに遭ったり名前を聞けば、記憶が浮かび上がってくるのだ。果たして彼女の前世で、いったい何があったのか。どうして殺されなければならなかったのか。謎は少しずつ解明されていくのだった。
夜の社会が描かれる上、若い女性が殺された(やや陰惨な)事件の犯人を追うという暗い主題の割りに、カラッとした文体がいい味を出している。キャラクターが立っているところも、評価ポイントのひとつだ。アラーキーと桃子のコンビによるとぼけたやりとりも悪くない(というか、本作の一番の魅力はそこかもしれない)。
謎解きは本作の「設定」の上で成り立つものだが、これはしっかり評価できる。30年前に千尋殺しの捜査を担当した元刑事の協力を得るくだりも無理がない。
ホステスとかホストとか「夜の仕事」に関する描きこみは自然で、かつきちんとストーリーに溶け込んでいる。だが全体的な文章表現については、ところどころ分かりにくいところがあるので、やや改善の要あり。また後半、特に終盤近くは、明らかになっていく人間関係が少しごちゃごちゃして分かりにくいかもしれないので、少々整理した方がいいだろう。
それでも読者を惹きつける力は強く、小説としての全体的な完成度は評価できる。一次選考通過の実力は十二分である。
(北原尚彦)