第23回『このミス』大賞 1次通過作品 シビュラの囁き
誘拐事件に立ち向かうのは
神の如き洞察力を持った「巫女」
『シビュラの囁き』青山太郎
誘拐事件が発生した。犯人はさらった少年のスマホからSNSのチャット機能を使って母親に身代金を要求。知らせを受けた所轄刑事と本庁の特殊捜査課員が被害者宅を訪れ、手がかりを探す。しかしスマホの位置情報に踊らされ、なかなか近づけず──。
犯人のモノローグと、所轄の刑事の視点で語られる捜査の様子が交互に描かれる。この所轄刑事の目を通して描かれる特殊捜査課の「巫女」の神楽がとても魅力的だ。
特筆すべきは頭脳戦。神楽と犯人との知恵比べは実にスリリングでワクワクさせてくれる。スマホの機能を駆使した誘拐作戦とその捜査もイマドキで興味深いし、次々と出てくる謎や手がかりも魅力的で読者を飽きさせない。文章は平易で読みやすく、伏線の混ぜ方も巧みで、総じて高いレベルにあると言える。
ただ、登場人物が少ないため容疑者が限定され、(細かい方法はさておき)真犯人が早い段階でふたりに絞られるのが惜しい。そのどちらかも伏線が親切なので慣れている人は気づくだろうし、そうでなくても後半の展開で片方は違うことがわかるので、そうなったらもう犯人の意外性はなくなってしまう。ミスディレクションとしてもうひとりの容疑者に読者の目をもっと惹きつけるような工夫か、あるいは他の容疑者を配置するなどのひと工夫があればさらに良くなるのでは。
(大矢博子)