第23回『このミス』大賞 1次通過作品 探偵と五人の息子たち

大学生の「僕」が同居する私立探偵は
ホスト時代に四人の隠し子を作っていた
突飛な設定が冴える青春サスペンス

『探偵と五人の息子たち』碧川アキラ

 二人きりで暮らしていた母親を亡くし、アパートに住めなくなった大学生の「僕」こと南アキラは、母の旧友である私立探偵・碧川晃司の家(兼事務所)に居候している。そんなある日、医者の漆原龍治が事務所を訪れ、浪人中の息子・和哉の捜索を依頼した。しかし漆原は身辺に探偵が来ることを嫌がり、妻の道子が”和哉は旅行中”と答えたことで調査をやめてしまう。
 アキラが留守番をしている間、事務所には碧川の知人たちが現れていた。興味を惹かれたアキラは尾行を試み、元ホストの碧川に四人の息子がいることを知り、彼らとの交流を始める。やがて碧川たちは道子の実家へ向かうが、そこには大きな秘密が隠されていた。
 天涯孤独の青年が探偵と同居してその息子たちに出逢い、探偵はいわくありげな人捜しを続ける。簡単にいえば本作はそんな物語だ。前半の展開はやや緩やかだが、後半では秘められた犯罪が浮上し、サスペンスの色合いが強まっていく。
 事件はほどなく解決するものの、これはまだ途中に過ぎない。ある情報と意図が判明することで、語り手の境遇に理由が与えられる。意外な角度からもう一つの謎を取り出し、伏せられていた心理を露わにしたうえで、それでも前向きな幕切れに導く――この筆運びは高く評価すべきだろう。結末を知ったうえで読み返すと、序盤から伏線が張られていたことに気付かされる。

(福井健太)

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