第22回『このミス』大賞 1次通過作品 失われし者のために

幼い娘の異変は、死者の霊によるものか?
失われた者が帰ってくる物語

『失われし者のために』桐生圭一

 死者の想念が家族を脅かすホラーである。
 和宏と綾子には二人の子がいた。息子の智則は、妻の綾子と前夫の間に生まれた子だ。二人が結婚してから生まれたのが、娘の真央だ。
 だが、二人は交通事故に巻き込まれる。11歳だった智則は死亡し、3歳の真央は左半身がほとんど動かせなくなってしまった。
 それから1年。4歳になった真央は、「私の体にお兄ちゃんが入っている」と言い出す。医師は心理的なショックによるものだと言うが、真央の不可解な異変はエスカレートして、ついには死を招きかねない行動に至ってしまった。和宏と綾子は恐怖を抱く。本当に真央の中に智則がいて、真央を連れていこうとしているのか……?
 物語は和宏の視点から語られる。智則とうまく関係を築けずに悩んでいた彼の心情を、いくつものエピソードを通じて描きだす。丁寧な人物描写であると同時に、ミステリーとしてのフックにつながっているところにも好感を抱いた。そう、この作品はホラーではあるのだが、ミステリー的な仕掛けも施されているのだ。
 ところどころ、たいへん都合よく物事が進んでしまうところはあるものの、読者の心を揺り動かそうとするストーリーの組み立ても十分に工夫されている。

(古山裕樹)

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