第22回『このミス』大賞 1次通過作品 死に至る6バイト
「死ね」一言の呪詛が人を殺す
過酷な境遇を生き抜く少女の物語
『死に至る6バイト』上田春雨
陰惨ではあるが、ぐいぐいと読ませる力を備えた物語である。
湊は北海道のある町に暮らす女子高生。父はめったに帰らず、母は四年前に父の不倫を苦にして自殺した。今では父の不倫相手だった継母と、要介護の祖母の三人で暮らしている。家計を握る継母は湊を虐待して一切面倒を見ず、湊は生き延びるため、この家を出るため、中学生のころから密かに売春をしている。
そんな湊の中学時代の友人・美保が事故死した。だが、彼女は殺されたのではないかという噂が流れる。湊の友人は、降霊術で美保の霊を下ろして、犯人を捜そうとする。だが、それは新たな不和の種となる……。
読んでいて愉快になる物語ではない。湊の周囲では凄惨なできごとが続き、彼女自身もやがて最悪な状況に追い込まれる。
似たような趣向の応募作品は他にもいくつか見られたが、正直なところ、ただ悲惨なできごとを列挙しただけになっている作品もあった。
本作の強みは、不穏さを徐々に盛り上げてサスペンスを醸成する語りと、数々のできごとをつなぎ合わせてミステリーとして仕上げる構築の力にある。ただ凄惨な状況を描いて満足するのではなく、そうした場面をパーツとして活用して、巧妙に物語を組み立てる。ミステリーの読者としては、そういう姿勢を評価したい。
(古山裕樹)