第22回『このミス』大賞 1次通過作品 不退転の花
重い題材を描ききった圧巻の筆力――
女性刑事が、捜査上のパートナーである年下のキャリア警視とともに
卑劣な犯人を追う!
『不退転の花』蒼峰天嶺
小説としての存在感が際立っていた一作である。
正直なところ、主人公を務める女性刑事の菖蒲透子や、彼女の捜査上のパートナーとなる鷹宮柊は、それぞれの属性だけを並べると、かなり現実離れしている。例えば鷹宮であれば、透子より三つ下の二十七歳で、父親が警察庁幹部、本人は国家試験を首席で突破したキャリア組の警視で、身長は一八〇センチ超えで、しかもイケメン、かつ女嫌い、といった具合なのだ。しかしながら、著者の筆を通すと、彼等はちゃんと人として動き出す。場面場面での思考に、その人物なりの筋が通っているのだ。そしてその思考を表現する文章も適切だ。だからセリフにも行動にも自然な説得力が備わる。そしてその彼等の言動は実に冴えたものであり、強力に物語を牽引していくのだ。となると、高評価とせざるを得ない。
そうした筆力の持ち主がこの作品で描いたのは、性暴力と連続殺人である。こちらの展開もなかなかに達者だ。最初の殺人事件を起点とする捜査のなかで、犯人からと思われる警察への写真の送付があったり、二番目の被害者の日記に異様な記述があったことが判明したり、さらに警察が犯人に仕掛ける罠があったりと、透子と鷹宮の捜査行にいくつものアクセントが設けられているのだ。また、性暴行という犯罪にも、著者はきちんと向き合おうとしている。透子自身が幼いころに性暴行の被害に遭ったという設定にするほどに、だ。
結末のインパクトも強烈。事件の流れに関するミステリ的なツイストを経て、その後明らかになる真相に衝撃を受ける。真犯人の心の歪みに、それを突き止める透子のアプローチに、そのアプローチを支える透子の心に、衝撃を受けるのだ。
陰惨な事件を題材とした小説だが、鷹宮というキャラクターが、物語に清涼感をもたらしている(もちろん警視としてちゃんと活躍した上でのこと)。このバランス感覚も、書き手としての才能といえよう。
ここまで加点要素が揃えば、一次選考で落選とする理由はない。ためらわずに、そう判断した。
(村上貴史)