第22回『このミス』大賞 1次通過作品 秘境駅に消える

山深い秘境駅に向かった恩師が消えてしまった!?
鉄道研究会所属の女子大生たちが先生捜しを繰り広げる
活きのいい青春ユーモア×鉄女ミステリ

『秘境駅に消える』風戸涼

 黒薔薇女学院鉄道研究会。略して“黒鉄”の顧問を務める准教授・雨宮の研究室では、春休みの遠征旅行についてのミーティングが部員たちと進められていた。雨宮が発表した内容は、静岡県を走る大井川鉄道の本線と井川線に乗ろうというもの。井川線には列車でしかたどり着けそうにない秘境の駅も多く、部員たちからも賛成の声が上がった。雨宮は日を改め、ひとりで遠征の下見に向かい、移動中の詳細を頻繁にツイートしていた。ところが、秘境駅の代表格ともいわれる尾盛駅で降りると告げ、下りのトロッコ列車に乗り込んだところでツイートが突然途絶え、そのまま消息を絶ってしまう。いったい、なにがあったのか。文学部の楓をはじめ部員たちは、雨宮の行方を追って尾盛駅を目指す……。
 学生鉄女たちのどこかゆるやかな先生捜しは、肩の力を抜いて愉しめ、スルスルとページをめくらされてしまう。聞き込みが進んでいくにつれ、次第に鉄道要素が薄れてゆくが、後半になると復活し、陸の孤島と化した秘境駅からどうやって犯人は移動したのかを巡る謎解きといった鉄女ミステリらしい見せ場もあって期待を裏切らない。全体的なまとまりの良さは認めるものの、もう少し突出した魅力があれば……とも正直思うが、愉しい謎解きミステリを書こうという意気込みを加点ポイントとして、二次に推す。

(宇田川拓也)

通過作品一覧に戻る