第22回『このミス』大賞 1次通過作品 容疑者『幽霊』
はたして犯人は幽霊なのか
この世とあの世をつないで解明するのが名探偵だ
『容疑者「幽霊」』永世文人
大学一年生の浅井省吾は、中学からの友人の出川太一とキャンパス内のカフェテラスで話していた。そこへ別学部の同級、奥山津美があらわれた。映像サークルの奥山は、ふたりに対し、長野県の火之原村で起きた、ある怪奇現象の調査を依頼した。
燃えた納屋から一体の遺体が発見されたものの、解剖の結果、その被害者は火災前に死亡していたことが判明。しかし、外傷も薬物反応もなく、死因不明のまま、地元警察は事件とも事故とも扱えずにいた。
現地に赴いた彼らは、十五年前にも火之原村で死因不明の遺体が見つかっていたとを知る。当時、家具屋を営んでいた土河牧夫の事件だ。だが、警察関係者は、東尾、西野、南田、北岡という頭文字をとって「東西南北」と呼ばれる四人に疑いを抱いていた。彼らは不動産デベロッパーで、村に大規模な太陽光発電設備を建設しようと悪質な地上げを画策していたのだ。
欠点から先にあげれば、すごく安直で都合良く書かれたところがいくつかあり、気になった。容疑者の名前の頭文字が「東西南北」ということをはじめ、もうすこし練ってほしい。ファンタジーめいたところがあり、それで現実味の乏しさをごまかした印象が残る。迷路を出口からこしらえたような安直さが、あからさまに見えるのだ。それでも全体的に、ドラマの描き方がいい。とくに複数の人物が登場し会話する場面がよどみなく愉しげに描かれているのだ。どんな作品を書いても場面を面白く読ませる筆力が作者にはそなわっているように思う。あえて厳しく指摘した欠点の部分も、読者によってはそこまで気にしない可能性もある。すくなくとも一次通過の水準はこえていると判断した。
(吉野仁)