第22回『このミス』大賞 1次通過作品 龍と熊の捜査線

科捜研ヒロインとゴツい刑事のコンビが活躍する
警察科学捜査小説の最前線をゆく迫力

『龍と熊の捜査線』新藤元気

 海老名市内にある養護施設「ソレイユ」にて、施設の建物がほぼ全焼する火災が発生した。特殊捜査班の熊谷は、現場に臨場し、科捜研・物理係の久龍小春とともに事件性の有無を判断するため出火原因の調査をおこなう。すると煙草の不始末による失火であることが判明。また行方不明となっている少年、立花望が書いたと思われる遺書が見つかった。遺書にはいじめられていたことや川に飛びこんで自殺する旨が書かれており、警察は行方不明の少年が自殺したとして遺体の探索をおこなった。
 いっぽう、東雲製薬の開発部長、佐久間は証券取引等監視委員会の職員らにインサイダー取引の容疑で私物を押収された。新薬の情報を一般公開前に漏洩した疑いだった。
 立花望はまだ生きているのではとの疑問を抱いた小春は、捜査を続行した。同時期に、クロスボウによる中学生傷害事件が起きた。警察は、その犯人が立花望である可能性が高いと判断した。
 やたら気性の荒い小柄な女性の科捜研職員と大柄な男性警察官のコンビという、いかにもありがちなキャラ設定に加え、インサイダー取引や臓器移植が必要な娘のいる男がおこした事件が絡んでいるなど、あまりに手垢のついたキャラだったり、動機のためにこしらえた感が強い設定だったりするところが気になった。たとえば気の強いヒロインも、ある局面だと乙女のごとくしおらしくなる弱点をもつなど、なにか新味がほしい。登場人物では、むしろ数学の得意な少年の登場とそのエピソードがいちばん説得力を感じた。それでも、科学捜査をはじめ、さまざまなディテールがしっかりしており、話の展開や流れもいい。一次通過作としては十分すぎるほど書けているのは、まちがいない。

(吉野仁)

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