第22回『このミス』大賞 1次通過作品 ブリッジ

舞台は地方創生プロジェクト推進中の山村
三人の独居老人はなぜネイルガンで殺害されたのか?
小さな共同体の暗部を照射した骨太な警察小説

『ブリッジ』青山蕨

 舞台は、地方創生のために空き家再生プロジェクトを推進している四国山間部にある雪深い小さなコミュニティ。一人暮らしの老人男性三名が空き家で立て続けにネイルガンを撃ち込まれて殺害された事件を、地元警察の生活安全課に所属する若手巡査部長・飯泉春雄と刑事課の部長刑事・外山渉、県警から派遣され指揮官となる山口祥子のトリオが捜査する様を通じて、小さな共同体の暗部に光を当てるとともに、地方自治体が抱える深刻な問題を浮き彫りにした骨太で読み応えのある警察小説です。
 冒頭にジョゼ・ルイス・ペイショットの『ガルヴェイアスの犬』の一節が引用されているのを目にした瞬間、これは当たりではと予感。続いてプロローグを読み、予感は確信に変わりました。二〇二〇年七月に、春雄の姉でコンサルタントの飯泉ゆかりが、長期滞在型ワーケーション施設にリノベーションされた旧酒造所で開かれた地方創生プロジェクト推進イベントのスピーチに臨むシーンを描いた二ページ弱のプロローグで、作者は舞台となる土地と作品のテーマ、主役の一人であるゆかりの人柄を的確に描き、一瞬で作品世界へと導きます。そして半年ほど時計を巻き戻し、捜査が進展するにつれて次々と局面を変えていく独居老人連続殺害事件の顛末を緩急自在に描いていくのです。謎解きミステリのツボを押さえたカードの切り方が巧みで、最後まで真相を悟らせないままページを繰らせるエンターテインメントです。キャラクター造形力、文章力、プロット構築力のすべてで一次通過作の水準を十二分にクリアしており、自信を持って推薦します。

(川出正樹)

通過作品一覧に戻る