第22回『このミス』大賞 1次通過作品 ニケの首

猟奇殺人鬼が五年ぶりに動き出した
少年たちと刑事が犯人に挑む哀切なサスペンス

『ニケの首』酒呑堂ひよこ

 二〇一八年三月、三人の女子高生が次々に殺される”ハナヅメ事件”が発生した。一人目は腕、二人目は胴、三人目は足が持ち去られ、血管に防腐剤を注入したうえで、大量の生花とともにキャンプ用の寝袋に詰めて遺棄されていた。そして五年後、公園の植え込みで被害者の腕の骨が見つかり、向島署刑事課の藤木彰人は大学時代の後輩である警部・兵藤圭史とコンビを組むことになる。藤木は当時のもう一つの事件――水死事故として処理された少女・篠田梨花のことを思い出していた。
 五年前に十二歳だった梨花の弟・颯太は、ショックによる解離性健忘で梨花の記憶を失いながらも、藤木に「この人、殺されたんだと思う」と語っていた。十七歳になった颯太は従兄弟の鮎川眞白と再会し、記憶を取り戻したと告げ、二人で梨花を殺した犯人を突き止めようとする。
 五年前の連続殺人犯が動き出し、少年と刑事が”別件”とされた事件を追い、すべての真相に辿り着く――本作はそんな正統派のサスペンスだ。インパクトのある猟奇殺人を最初に掲げ、それぞれに事件への想いを持つ関係者たちを配し、各々のドラマと犯人探しを融合させた作りが秀逸。地に足の付いたプロット、印象的なクライマックスに加えて、少年たちと刑事の想いをしっかりと着地させる幕切れも心地好い。事件の派手さだけではなく、心理劇としての骨格を意識し、厚みを加える手つきは物語作家の技量を感じさせる。バランスの取れた書きぶりを支持したい。

(福井健太)

通過作品一覧に戻る