第22回『このミス』大賞 1次通過作品 見える人たち
幽霊を視認できる人々と殺人事件の顛末を描く
破天荒なオカルトミステリー
『見える人たち』山本そら
四歳の男児と母親が駐車場で刺殺された。半年前に飛び降り自殺を図って復帰し、捜査一課を退いた刑事・花房太郎は、殺害現場の近くで侍の幽霊を目撃する。捜査一課の後輩である有元によると、被害者も侍を見たと話していたらしい。女性刑事・塩田夏帆が殺された三年前にも侍が現れており、花房は二つの事件には関連性があると考えた。
上司の笹川警部に捜査を止められた花房は、有元に「塩田さんを殺したのは、笹川警部だよ」とメールを送り、高校時代の同級生である霊能力者・井伊詩織の「占いの館」を訪れる。花房、有元、詩織の三人は侍の幽霊に遭遇し、殺人現場で被害者の記憶を追体験した。その後、有元と別れた二人は江戸時代に飛ばされ、処刑場で首斬り役人・閑右衛門の姿を目にする。それは幾度も見た幽霊にそっくりだった。
幽霊が見える刑事と占い師を主役として、連続殺人の真相を追究するオカルトミステリー。文章の粗さとプロットの唐突さは否めないが、定型に沿わないことで不穏な空気を漂わせ、奇妙な味を生んだことは注目に値する。斜め上の展開から思いがけない事態を導き、サプライズを演出したうえで、なんとなく解決したような(しかし微妙なモヤモヤが残る)独特の読後感を残す。このセンスはそう真似できるものではない。
修正すべき点は多いものの、ユニークな味わいには一読の価値がある。「こんな変な話があったよ」と語りたくなる訴求力を持つ異色作だ。
(福井健太)