第22回『このミス』大賞 1次通過作品 運命の子
隔絶された村で老人が変死した
殺人犯の正体と村の秘密をめぐる本格ミステリー
『運命の子』矢崎紺
外界から切り離された渫砥村は、旧家・高時家によって宗教的に支配されていた。高時家の女児は十八歳までに死ぬという伝承があり、十六歳の高時理都は西集落を治める鷹ノ巣深緑と結婚して身籠もった。その翌年、鷹ノ巣家の長である鉛丹が離れで撲殺され、被害者が持っていた「封印の塔」の鍵が奪われる。東集落にある鍵と合わせて使うことで、塔に封印された悪魔を解放できる――とされているものだ。
いっぽう東集落を治める能因家では、理都の妹である深都が出産を控えていた。能因家の少年・藤丸は鷹ノ巣家の娘・鴇乃に出逢い、外界へ出たいと夢を語る。殺人犯の手に刻印が現れるという「審判の儀」を目前にしたある日、深都が高熱を出し、能因家の長である竜胆は祈祷所へ向かう。その頃、西集落では理都が行方不明になっていた。深都はほどなく無事に出産し、藤丸は祈祷所で竜胆の刺殺体を発見する。「封印の塔」の鍵は何者かに持ち去られていた。
因習に縛られた閉鎖的な村を舞台として、連続殺人の真相を暴くというスタイルはいかにも古典的だが、渫砥村の(ひどく現代離れした)設定は雰囲気を醸すだけではなく、力技を成立させるための要件でもある。家系図や「悪魔」にまつわる発想法は、麻耶雄嵩の『翼ある闇』や『鴉』を彷彿させる。つまりは本格ミステリーファンに訴える作風なのだ。
視点の切り替えが効果的ではなく、関係者たちの認知にまつわる疑問もあるが、それらの弱点を踏まえたうえで、メインアイデアを組み込んだロジックは高く評価したい。今年度の本格枠として残す次第である。
(福井健太)