第22回『このミス』大賞 1次通過作品 ウィザーズエンド
魔法使い版『そして誰もいなくなった』in 見えない飛行船
死なないはずの魔法使いを次々に殺した犯人は?
『ウィザーズエンド』サティスファクション吉田
ラジムとルシアナ、ふたつの国の間で起きた戦争はそれぞれが圧倒的戦力を持つ魔法使いを投入したため泥沼化し、夥しい数の人間が死んだ。その反省から魔法使いを特区に隔離する排除令が成立。最後まで抵抗したひとりの魔法使いを処刑することで、二国と魔法使いたちは平和な日々を送れるようになった。
しかし時が経ち、ルシアナは一方的に条約を破棄し、ラジムの第二王女を誘拐する。そこでラジムは特区にいた魔法使いたちに頼った。七人の魔法使いたちはその圧倒的な能力で王女を奪還、魔法の力で作った見えない飛行船でラジムを目指す。
ところがその飛行船の中で、事件が起きた。簡単には殺されないはずの魔法使いが相次いで殺されたのだ。凶器はかつて処刑された魔法使いが作ったとされる呪詛の弾丸。閉ざされた飛行船ゆえ、犯人はこの中にいる……。犯人は誰なのか。そして魔法使いが魔法使いを殺す、その動機は何なのか。
それぞれ異なる特性を持つ魔法使いたちの、その特性を生かした事件展開や謎解きには感心した。特殊設定ミステリに必要な「そのルールの中での論理的な謎解き」をしっかり押さえており、細かい伏線もしっかり機能している。終盤の二転三転する展開からのクライマックスもいい見せ場になっている。ミステリを構築する技術はとても高い。
ただ、七人いる魔法使いと第二王女、それぞれの書き分けのためだろうが、特に序盤はライトノベルのような記号的な個性になっているのが気になった。「ふみゅう」「はわわ」などのセリフも然り。それほどわかりやすい色をつけなくても、それぞれに「キャラ」ではなく「背景」を用意すれば十分に書き分けられる筆力があると思う。むしろ世界設定に注力してほしい。異世界(だよね?)の部屋の広さを「六畳」と表現するなど、瑣末ではあるが世界のイメージが固まってない印象を受けた。
(大矢博子)