第20回『このミス』大賞 1次通過作品立ち読み 紅い祝杯は人魚の血

『紅い祝杯は人魚の血』

大立風(おおたち・ふう)26歳
1995年、宮崎県生まれ。熊本大学文学部卒業。その後二年間会社員として勤務、現在漫画家として活動中。大分県在住。


プロローグ

「人魚館に住む悪魔の一族……か」
ベッドの上、鯉川が開いた週刊誌には、そんな見出しが書かれていた。
静かで短い冬の夕暮れ。窓から射し込む西日は、白く清潔な壁紙を赤く染めている。
不意に、鯉川の視界は赤く染まった。目の奥に焼きついた幻は、次第に現実味を帯びていく。ほんの一週間前の出来事だが、それはどこか遠い記憶のようで、しかし決して忘れることなどない、あの惨劇――――
ゆっくりと……ゆっくりと息を吐いた。
あの事件はもう過去のものだ。そう何度言い聞かせても、受け止められずにいた。あの四日間の出来事を、あの異常な狂気に満ちた連続殺人事件を。
すっと鯉川は目を閉じた。もう一度だけ向き合えば、この事件は自分の中で終わってくれるだろうか? 今までもそうして、しかし失敗に終わってきた。だが次こそは――淡い祈りとともに、記憶の海に沈めたあの人魚の館に再び足を踏み入れた。

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