第19回『このミス』大賞 1次通過作品立ち読み 楽しい修羅場の歩き方

『楽しい修羅場の歩き方』

和久井透夏(わくい・とうか)29歳
1990年生まれ。
第1回カクヨムWeb小説コンテスト特別賞受賞。


第一章 小夜子さんストーカー殺人事件

「惜しいストーカーさんを亡くしたわ……」
「惜しい……なんて?」
 普通に聞き流しそうになって、僕は聞き返す。
 朝食として出された味気ない液体を飲んでいた手が止まる。
 小夜子さんは、きょとんとした顔で僕を見た後、またテレビの方へ視線を戻す。
 ニュース番組では、最近世間をざわつかせている連続不審死事件で新たな犠牲者が出たと報道している。
「惜しいストーカーさんを亡くしたわ」
 さっきと同じ声と表情だ。
「いや、聞き取れなかったんじゃなくて」
 色々つっこみたい事が多すぎて、どこからつっこんでいいのかわからない。
 僕が小夜子さんと暮らし始めて、まだ一週間も経っていない。
 だけど、僕が十八歳になるまでの八年間、これからずっとこの人と暮らすのかと思うと、頭がくらくらしてくる。
 それもこれも、最近発覚した僕の体質のせいだ。

 物心ついた頃から僕は平凡な、ごく普通の子供だったはずだ。
 勉強も運動も、全くできない訳じゃないけど、取り立てて優秀でもない。
 仲の良い友達はいたけど、別にクラスの人気者って感じでもなかった。

 だけど、いつからかそれが急に変わり始めた。

 僕自身は何も変わってない。
 朝起きたらものすごくカッコよくなってた訳でも、突然足が速くなったり、勉強ができるようになった訳でもない。
 ある日、最近なんだかクラスメートや先生が優しいな、と気付いた。
 皆、機嫌良さそうにニコニコ笑いながら僕に話しかけてくる。
 登下校中にも、近所の顔見知りの人や、知らない人まで、笑顔で僕に挨拶してきた。
 たまに自販機でジュースを買ってくれたり、お菓子をくれる人も何人かいた。
 特に変だと思ったのは、お父さんとお母さん。
 やたらと抱きついたり、なでたり、ほっぺにキスしたり、今までそんな事はしなかったのに急に僕にベタベタし始めるし、僕が何を言っても、やっても、褒めてくる。
 欲しいものは新しいゲームソフトもスマートホンも、ゲーミングパソコンだって、何でも買ってもらえるようになった。
 僕が行きたいと言ったら、映画館でも、水族館でも遊園地でも、必ずすぐ連れて行ってもらえる。
 始めは気分が良かったし、嬉しかったけど、やっぱりちょっと気味が悪い。
 だけどそれもしばらく続くと“いつもの事”になった。
 お母さんもお父さんも、ある日突然僕がこうなった事に、何か心当たりがあるようだったけれど、僕がその事を尋ねても適当に話をはぐらかされた。

 どこに行ってもちやほやされる変な居心地の悪さにも慣れた頃、家族で出かけた先で、バラエティ番組のインタビューを受けた。
 少しして、テレビに映った僕の画像が『リアル天使』とか『これは良いショタ』とかネットで騒がれて拡散されたけど、もう驚かない。
 僕がテレビに一瞬映っただけで、すぐに家や学校はその話題で持ちきりになった。
 僕がインタビューをされているシーンだけを切り取った画像や動画がネットで大量に出回って、クラスメイトには動画配信したら絶対儲かると勧められたりもした。
 どうやら僕は“特別”らしい。
 自分ではよくわからないけど、皆そう言うんだからきっとそうなんだろう。
 なんだか僕はそれが怖い。
 まるでゲームのバグ技みたいに、明らかに不自然な事が起こっているのに、世界中の誰もそのおかしさに気づいてないみたいだ。
 テレビに映ってしばらくしたら、芸能事務所の人が家にやって来た。
 その人は僕をスカウトしに来たみたいだったけど、いきなりそんな事を言われてもわからない。
 お母さんはまずは家族で話し合いたいと話を切り上げて、その日の夕方、お父さんもいつもより早く帰ってきて家族会議になった。
「……という訳なんだけど、ねえあなた、もうこれは間違いないでしょう? ゆーくんは『魅了体質』よ!」
「そうだな、初めは親の欲目かと思ったがこれは……」
 芸能事務所から僕にスカウトの声がかかった事を説明してから、お母さんが確認するように言えば、お父さんが嬉しそうに頷く。
「みりょうたいしつ?」
 初めて聞く単語に首を傾げる。
「言うなれば、超愛され体質よ。すごいわ! これでもう将来は安泰よ!」
 興奮した様子でお母さんが僕を抱きしめる。
「そうなの?」
「魅了体質というのは簡単に言うと人に好意を持たれやすい体質で、お父さんやお母さん達の家系ではたまにそういう人間が生まれるんだ。大体十歳頃に発現してからは死ぬまでそれが続く」
「常に色んな人からモテモテで、男でも逆玉の輿が狙えるし、芸能人みたいな人気商売なら成功は間違いなしよ!」
 お父さんの説明の後、お母さんが嬉しそうに付け加える。
「お母さん、若い頃から魅了体質に憧れてたから、ゆーくんがそうなってくれて嬉しいわ~! とりあえず、早速小夜子ちゃんに電話ね!」
「そうだな、由乃が魅了体質とわかった以上、できるだけ早く小夜子ちゃんの所に行った方が安全だろう」
 スマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めたお母さんに、お父さんは頷く。
 安全って、どういう事なんだ。
「小夜子ちゃんって、誰?」
「誰って、親戚の小夜子ちゃんだよ、小学校に上がる前はよく遊んでもらってただろう」
 そんな事を言われても、小学校にも入る前の事なんて、ほとんど憶えてない。
「ゆーくん、お父さん、小夜子ちゃんとこれから会う事になったわ」
「今から!?」
「ええ、これからゆーくんがお世話になるんだし、早めにご挨拶しておかないと。ちょうど同じ都内だし」
 色々と唐突過ぎる。
 展開の早さに頭が追いつかないまま、なぜか僕はその小夜子さんに会いに行く事になった。

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