第19回『このミス』大賞1次通過作品 三つ前の彼

御曹司が奇妙な遺言を残して早世した
元カノの強欲弁護士がその真意を解き明かす

『三つ前の彼』新川帆立

 大手製薬会社の御曹司・森川栄治が「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という遺言を残して死亡し、元カノの「私」こと弁護士・青山百合絵は、森川家主催の犯人選考会に参加することになった。百合絵は栄治の友人・篠田と手を組み、篠田こそが死の原因だと主張する。それとは別に(百合絵を含む)栄治の元カノたちに軽井沢の屋敷が贈られるが、そこで遺書を収めた金庫が盗まれ、栄治の顧問弁護士・村山権太が毒殺された。栄治殺しの新たな容疑者──従兄弟の森川拓未が浮上し、百合絵は犯人の座を篠田に譲らせようと画策するものの、篠田に代理人を解雇されてしまう。
 奇妙な遺言をきっかけとして、強欲な弁護士が殺人事件に遭遇し、故人の真意と犯人を突き止めるサスペンス。リアル志向の作品ではないにせよ、法的処理(欠格事由への配慮はある)や人々の言動に疑問が多く、減点法だと厳しさは否めない。しかし視点を変えてみれば、バッサリと枝葉を切り落とし、大金をめぐる善意と悪意のドラマに徹したとも言える。オープニングから傲慢かつ身勝手な主人公を動かし、徐々に読者側に寄せていく見せ方も好ましい。犯人の座を争うシチュエーションは面白いだけに、改稿で化ける可能性はありそうだ。

(福井健太)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み