第22回『このミス』大賞 1次通過作品 溺れる星くず
所属事務所の社長を殺して山に埋めたアイドルたちを襲う危機また危機――
だが彼女たちは歌い続ける!
『溺れる星くず』遠藤遺書
女性アイドルのルイを主人公とするサスペンスである。
ルイは、三人組の女性アイドルグループ「ベイビー★スターダスト」のメンバー。彼女たちはいわゆる地下アイドルとして、社長兼プロデューサーの羽浦のもとで活動していた。ルイは惰性で、テルマはセンターを奪われた嫉妬を抱えつつ、そして新センターのイズミは恋人の暴力に苦しみつつ。ある夜、テルマとともに“業界の有力者”への接待を終えたルイにイズミから連絡が入った。羽浦を殺してしまったというのだ。彼女が逮捕されればグループは終わると考えたルイは、テルマやイズミとともに、羽浦の死体を埋めることを決意する……。
末期的状況のアイドルグループが、殺人と死体遺棄という罪を抱えたうえで、それでも活動を続けていくという、かなり挑戦的な設定の物語なのだが、これがまたよく書けているのだ。まず、三人それぞれの内面――希望、欲、プライド、計算、挫折、などなど――が、過去を含めてきちんと描かれているし、その内面が事件を通じて変化していく様子も丁寧に語られている。故に、読み手としては彼女たちを“推し”たくなってしまうのだ。
また、多様な危機が三人に次々と襲いかかるという展開もスリリングでよい。「センターによる社長殺し」が最大の事件であり、失踪扱いされた社長の行方を探る興信所が彼女たちに迫ってくることが危機の代表例なのだが、著者はその他の心理的なプレッシャーも作品に織り込んでいるのである。例えば、ライブ後のチェキ会でのファンからの心ない言葉(ファン自身は建設的な提言と勘違いし、そんな自分に酔っている)といったささくれのようなものから、豪雨が山に埋めた死体を露呈させてしまうのではないかという不安、あるいは、芸能界ならではの仕掛けなど、著者は、手を変え品を変え、三人を揺さぶるのだ。なかには多少強引に感じられるものもあったが、その先を読むと、きちんと理由が説明してあって納得できる。そして著者は、そうした危機の連続を、息切れすることなく結末まで書き通した。高く評価すべきポイントである。
しかも、その危機の連続のなかで、きちんとクライマックスも用意している。それまでの人物描写や、あるいは読者に提供してきた情報の積み重ねを活かすかたちで、だ。さらに加点したくなるわけで、これはもう推すしかない。
(村上貴史)