第22回『このミス』大賞 1次通過作品 悪魔のロジック神のセオリー
無差別大量殺人犯の計画を阻止するのは
超人的頭脳の天才棋士か、世界最高度のAIか
大規模犯罪と人工知能の進化を巡る大攻防劇
『悪魔のロジック神のセオリー』桂木希
人並外れた頭脳を持つ天才棋士・坂田は、認知心理学者・橘が開発した世界最高度のAIを対局で圧倒するが、じつはこの勝負には坂田が抱える記憶障害とも関係した秘めたる意図があった。坂田は橘が使用している最高速計算機『劫』(カルマ)のAIを利用し、あるファイルの解読を目論んでいた。それは六年前に無差別大量殺人によって坂田の妻子の命を奪った男・峠ノ越(とおのこえ)が残したもので、さらなる大規模犯罪の計画が記録されていた……。
冒頭の不穏な場面を経て、天才棋士とAIの対局でたちまち物語に引き込む手際のよさだけでも、他の応募作より頭ひとつ抜けていると感じた。旬のネタであるAIを扱う手つきも軽々しくなく、知的なエンタメとしての域に達している。中盤にもかかわらず、爆弾が仕掛けられた走る新幹線、国立競技場の破壊計画といったクライマックス級のド派手な活劇が続き、さらに中心となる人物たちにまさかの展開を用意するなど、飽きさせない。欲をいえば、大規模犯罪と犯人像に斬新さがあればとも思うし、タイトルも一考が必要と感じるが、ここではよしとしよう。著者はすでに商業デビューを経験しており、より厳しい目で臨んだが、今回拝読したなかでもっとも面白いという評価は結局変わらなかった。ためらいなく二次に推す。
(宇田川拓也)