第22回『このミス』大賞 1次通過作品 マリンフラワーの密室
謎の魅力で読者の心を掴みたいという
強い意欲を感じる
『マリンフラワーの密室』雨地草太郎
そうそう、整理、整理。それが大事。
途中まで読んだところで登場人物の一人が、疑問点を整理しましょう、と箇条書きで列挙し出した。そのへんでちょっと嬉しくなってくる。いくつか挙げられたのは、小説の中で確かにふわふわと浮いている要素なのだ。それがどこかに当てはめられれば納得のいく解釈が成立するはずなのに、うまくいかない。全部のピースを揃えることはどうやったらできるのか。そんな心の声が聞こえてくる。これって謎解き小説としてはうまいやり方だ。手がかりにつながる道筋を全部曝け出しているわけだから。好みを言えばもう少し細かく、具体的にそれぞれ書いたほうがいいな。手がかりの出し方は大胆であるべきだ。
本作は瀬戸内海に浮かぶ険島を舞台とした謎解き小説だ。謎に挑むのは情報誌の編集者と撮影者のコンビである。編集者の〈私〉こと神戸灯は、島に着いた早々「くる、しい」という呻き声を聞く。さらに取材を進めているうち、いわばから人が転がり落ちて死ぬという事故が起きてしまう。これらの出来事が物語の入口となり、後には謎を解くためのピースとして使われるわけである。島には謎の伝承があって、という舞台設定も定石通り。伝奇ミステリー風の設定を充分に使いこなせているか否かの判断はここではしないが、苦言を呈するなら、21世紀の今その設定を使うことの意味合いについて作者は考えるべきだったと思う。現代と接続できたとき、伝奇要素は光り輝くのである。それがないと、どうしても表面をなぞっただけという印象になってしまう。
作品の価値は複数の変死事件にある。それぞれについてはよく考えられていると思う。謎解き小説を書こうという意志が行間に感じられ、好感を持った。トリックの先例は存在するが、使い方もかなり違うしオリジナルと認定していいだろう。トリックの新奇さに依存せず、きちんと謎解きのための構造を作っている点は評価したいと思う。
(杉江松恋)