第22回『このミス』大賞 1次通過作品 嘘つきな探偵に真実を
ロジックで読者をもてなそうという
気概は二重丸
『嘘つきな探偵に真実を』天地理
ミステリーで大事なものはやはりロジックだよな、と改めて思う。
本作は枠小説である。枠にあたるものは主人公の関地愛が、失踪した姉・和の書いた四篇の小説を学校の新聞部室にいるという幽霊の探偵に読ませるという設定だ。部室にいた界アラセという人物がその原稿を受け取って、愛の依頼を実行する。おもしろい設定なのだがプロローグは短く、設定のあらましを紹介するだけの役割しか果たしていない。ここで和の人物像が浮かび上がるくらいのエピソードが愛視点で入れられれば、その後の物語に対する読者の共感度もだいぶ違うと思うのだけど。
それはさておき、本体に当たる四篇である。「ボーンチャイナの謎」「アメリカンコーヒーの謎」「ダブルダッチの謎」「ウォールジャーマンダーの謎」と題された各篇は、いわゆる日常の謎を扱うミステリーで、二段構えの解決が行われる。作中で呈示された謎解きの他に、界アラセによる読解が付されるのである。作中作に対して小説の内外でそれぞれ真偽の判断が下されるという形式は先例があると思うが、それを徹底してやっているので読み応えがある。最後に下す結論だけに意味があるのではなく、その途中で行われる議論なども実が詰まっている感じでなかなかいいのである。私が気に入ったのは「ダブルダッチの謎」で、犯行方法や動機などさまざまな角度から解が追及されていく。密度の高い内容である。ここまでみっしりとした謎解きであれば、全体の趣向がどうであれ評価しなければならないと思う。とりあえずオムニバス形式の物語としては水準を超えた。
残る評価は枠の設定に関するものだが、あくまでおまけだと私は感じた。四篇をすべて読み終えた者に供されるデザートである。作品の目玉とするにはちょっと弱い。だが、そこまでで読者はおなかいっぱいになっているはずだ。デザートは別腹の人ならば、どうぞ。
(杉江松恋)