第22回『このミス』大賞 1次通過作品 空白の椅子

IT企業の昇進試験に集められた6人の男女
しかし彼らに与えられた課題は
現実の殺人事件の犯人を見つけ出せというものだった!

『空白の椅子』橘むつみ

 犯罪の証拠となるデジタルデータの収集・分析を専門とするデジタル・フォレンジック調査士がある洋館に集められた。彼らが所属する企業の昇進試験ということだったが、彼らに課されたのは実在のデータから殺人事件の犯人を見つけろというもの。しかもそのデータは、試験参加者それぞれが浅からぬ縁を持つ女性が死んだ一件だった。この試験は犯人を炙り出すためものものなのか──?
 序盤からキャッチーであっという間に引き込まれた。ネットが使えず出入りもできない閉ざされた空間で、与えられた情報だけから真相を推理するという安楽椅子探偵モノの面白さと、この中に犯人がいるかもしれないという駆け引きのサスペンス、少しずつ明るみに出る当時の事情により二転三転する展開、そして犯人がわかったあとのもうひと押し。ミステリの構造として細部まで目配りが効いている上、いっそ小気味いいほどスピーディに展開するので読者をまったく飽きさせない。
 むしろ彼らの駆け引きはもっといろいろあってもいいのではと思ったくらい。犯人についても、ひとりずつ消去していくので残ったひとりが犯人なのだろうとわかってしまうし、黒幕も然り。登場人物が限定されていることもあり、犯人も黒幕も意外性という点ではやや薄いが、犯人がわかったら黒幕、黒幕がわかったらその裏、と次の興味を引くよう設計しているので、意外性の弱さも気にならなかった。
 キャラクターもいい。特に探偵役のオタク青年・拓郎は最初こそ「うざっ」と思ったが、どんどん印象が良くなる。彼の今後の活躍も読んでみたいと思った。

(大矢博子)

通過作品一覧に戻る