第10回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『ある半島の出来事』安生正
『夜に流離う少女』佐喜多謙吾
『リトルメーカーズ』牛田隆久
『交換日記』袋小路
『誘惑ごっこ』山田一郎
『月と花火』一村征吾
サイレント』逸乃眞仁

村上貴史コメント

 安生正の『ある半島の出来事』は、朝鮮半島で再び南北が激突し、米国や日本もその戦争に巻き込まれるはなしであるが、まずは軍事冒険小説として愉しめた。これを二次選考に残さなかったのは、残った作品と比べて加点要素が弱かったためである。上位3作にも欠点はあるし傷もある。だが、それを許容しようという気にさせるだけの魅力があったのだ。この作品は、軍事冒険小説の典型の範疇にきっちりと、かつ大人しく収まっていて、そこが物足りなかった。日本にミサイルが飛来して大きな被害が出たりするなど、あれこれ仕掛けてはいるのだが、どこか描写が控えめというか、あっさりしているのである。濃く書くべきところは濃く書くべきだろう。
 これが、いわば次点とでもいうべき作品。その他は、かなり甘めに選んだ。
 佐喜多謙吾『夜に流離う少女』は、児童の性的虐待を巡るサスペンス。そこそこ緊迫感はあるが、中だるみする部分があったのが残念である。牛田隆久の『リトルメーカーズ』のSF的設定は相当にチープ。なにしろ地球外生命体のツクール星人である。そんな設定で動く物語だが、希望と温もりがあった。そこが嬉しいし伸ばして欲しい持ち味だ。袋小路『交換日記』は、その題の通り、交換日記を地の文と絡めたサスペンスである。ねじれていく具合はなかなかに魅力的。だが、着地点がありがちな“意外な真実”だった点が惜しまれる。山田一郎『誘惑ごっこ』は、二重の誘拐事件と、交通事故が“意外なかたちで”結びついてしまうという作品で、軽快に読ませる。だが、その“意外なかたち”に新鮮みが欠けていた。一村征吾『月と花火』は少年少女の戦いの物語。きっちりと書かれてはいるが、もう一歩読者側に近寄ってほしかった。逸乃眞仁『サイレント』も力量を感じる一作。だが、麻薬やら幼女誘拐といった題材をダークでダウナー系の物語のなかでつややかに光らせるためには、もっと文章を磨き込むべきだろう。
 それにしても今回の一次予選では、例年以上に応募規定を守っていない作品が目についた。応募規定を守らずに、どうやって賞を獲得しようと考えているのだろうか。次年度はこうした投稿が皆無になってほしいものだ。

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