第10回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『光と影とその隙間』梶永正史
『ルクヌー・ヌクム王国』高清水ヨオキ
『輝ける未来を祈れ』高橋麻奈
『テロルの季節』赤坂彦

古山裕樹コメント

 梶永正史『光と影とその隙間』は、一次通過とするかどうか迷った作品で、視力を失ったマラソンランナーと、彼を再び走れるように導いた女性、そして彼の伴走者の物語。同じ出来事を複数の視点から描くだけでもちょっとした驚きを生み出していて、全体の構成も悪くない。気になったのは、事件とその解決とのバランス。この真相、「実は双子でした」にも近いワイルドカードなので、扱い方には慎重であってほしい。例えば、主人公の生い立ちをめぐる冒頭の描写に、もっとぎりぎりの伏線を仕掛けた方が、説得力も増したのではないだろうか。

 高清水ヨオキ『ルクヌー・ヌクム王国』は、小学生たちが遊びで作った「王国」の物語だ。自分たちで作ったルールによって「女王」に選ばれた少女が、どこかの首相のようにルールを利用してその地位から離れず、「国民」たちを束縛してしまう。そこにやってきた教育実習生が、「女王」に勝負を挑む。小学生の遊びという小粒な題材でも、真摯に描くことで十分に切実さを感じさせる作品だ。ただし、知恵比べとしても小粒なのは残念。もしも「しょせん小学生だから……」とブレーキをかけていたのなら、そういう制限は取り払ったほうがいい。やってることは小学生の遊びだけど、繰り広げられるのは冷戦期スパイ小説ばりのパラノイアックな策略と謀略。そんな凝り方をしてもよかったのでは。

 高橋麻奈『輝ける未来を祈れ』。前回の「次回作に期待」にも取り上げた方の新作で、確かに前回よりもミステリとしての謎に魅力が増している。ただし、前作の「寂れた人形工場」のような、作品全体を代表する分かりやすい「絵」がないせいか、全体の印象が弱くなっているのは残念。また、謎の解明が終盤に詰め込まれているため、そのプロセスを楽しむ余裕がなかったのが惜しまれる。構成のバランスを整えて、作品全体の色合いを定めることができれば、もっと輝くのではないか。

 赤坂彦『テロルの季節』は、昭和の満州や上海を舞台に、陸軍内の日中和平工作を進める一派、関東軍、中国側の秘密組織などが暗躍する謀略もの。ある人物の意外な正体、というところに力を入れたせいかもしれないが、日本側・中国側ともに各派閥がそれぞれの思惑を抱えて動く……という混沌とした構図が、だいぶ簡略化されているように感じられた。その結果、せっかく当時の上海を舞台にしていながら、魑魅魍魎が跋扈する魔都の匂いが薄れ、なんだか淡泊になったような印象を受けた。日本軍と戦う国民党の最大の敵が共産党だったりするようなややこしい図式を希釈せずに提示した方が、謀略ものには似合うように思う。

 最後に。
 たまに登場人物のイラストなどが付いた原稿もあるのですが、選考上プラスに働くことはまずありませんので、違うことに労力を割いたほうがよいでしょう。登場人物の容姿を細かく伝えたい……という意図があるのかもしれませんが、それはやはり文章で表現してほしいところです。

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