第10回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント
『壁の向こう』星川 尊
『ジョハリの窓が開かなくて』禁野 真
『お嬢さん、お手をどうぞ』青砥君尋
北原尚彦コメント
『このミス』大賞も、今回で10回を迎えました。そのおかげか、(少なくともわたしの担当分に関しては)小説の体をなしていない、箸にも棒にも引っかからない応募作というものはかなり少なくなりました。
もっとも、どんなに甘く見積もっても規定の最低枚数の5分の1にも満たないものがありました。ほんのわずかなプラスマイナスは換算方法の誤差とみなしますが、明らかに不足しているもの(もしくはオーバーしているもの)は、その時点で失格です。「読んでもらえさえすれば、良さが分かってもらえるはず!」などと思っているのかもしれませんが、そんな作品が通過できるほど甘いものではないのです。
もっとも、最低限小説として完成しており、枚数をクリアしてさえいれば第一次選考を通過できる——というものでは、もちろんありません。読みやすくなければいけないし、何より面白くなくてはいけない。作品を客観的に読み、もしくは誰かに読んでもらい、少しでも作品のレベルを上げるよう努めてください
さて、「次回作に期待」作品、まずは『壁の向こう』(星川尊)から。これはざっくばらんに言ってしまえば、SF設定の作品。第8回に『このミス』大賞を受賞した『トギオ』(太朗想史郎)と同系列と言ってもいいかもしれない。
近未来、人類は巨大な「壁」で汚染地域から隔離し、限られた場所で住んでいた。人類は若いうちに適正能力を検査し、それを鍛え、それを生かす仕事についた。
俊介は孤児院育ちだったが、同級生の幸太郎と麻里と仲良くなる。学生時代最後の春休みに、3人は「壁」を訪れた。そこで、予想とは異なる出来事が起こる……。
ときどき分かりにくい描写や、誰のセリフかわかりにくいところはあるものの、全体的な文章力はなかなか。
だが「壁の向こう」に行くまでの話が続くばかりで、途中でちょっと飽きてしまう。また到達してからはあっという間に終わってしまい、やや肩透かし。この世界の真の姿も、さほど目新しさが感じられなかった。全体的な構成を練り直した方が、もっと面白くなるはず。
続いては『ジョハリの窓が開かなくて』(禁野真)。小学5年生にして同級生を殺害し、更に連続殺人を計画していた咎で児童自立支援施設に入っていた少年は、世間に出る条件として「就職できたなら」という前提を付けられた。それがゆえに、巡り巡ってハローワークSのハチャメチャ職員・芝浦憂作が、少年を就職させねばならなくなった。奔走する芝浦。果たして少年の就職は可能なのか。やがて過去の事件に隠された事実が判明する……。
この「犯罪者として断罪された少年をなんとか就職させる」という設定は非常に面白いし、ハローワークがいかにして求職者を就職させるかというところは非常によく描かれている。ただ、芝浦憂作にどうしても魅力が感じられない。うすっぺらいキャラクターというわけではないので、キャラ設定の方向性を間違っているのでは。また、後に明かされる事件の真相も、ややありがち。どうせなら、読者を驚かせる意外なものを用意して欲しい。
3つ目は『お嬢さん、お手をどうぞ』(青砥君尋)。女子高生の茶木凛は、唐草緑朗という男と泥棒を繰り返していた。目的は椅子だけ。それもただの椅子ではない。首吊り自殺に用いられた椅子でなくてはならないのだ。
ある時、盗みに入った屋敷で、幼い女の子から姉を探して欲しい、と頼まれる。その手がかりとして見せられたのは、冷蔵庫に入っていた、姉のものだという両腕だった。
その頃、連続通り魔「腕切り」が世間を騒がせていた。ふたりは唐草の友人・屋代夏目に相談するが……。
「首吊り自殺に使われたイス専門の泥棒」「冷蔵庫内の腕」「骨泥棒」など、非常に魅力的な要素が満載。キャラの設定もなかなか面白い。
但し「腕を切り続ける」理由は、いまひとつ納得がいかなかった。もっと、どうしても切り続けねばならないような強い要因が欲しかった。
また三人称なのに、(「わたしは…」とこそ書いていないが)地の文がほぼ一人称のように書かれている部分が頻出する。意図があってこのような書き方をしたのかもしれないが、マイナス面しか感じられない。もっと三人称らしく書くか、いっそ潔く一人称にするか、決めた方がいいだろう。
最後に。これは今までにも繰り返し言っていることですが、完成してプリントアウトしたら、最低1回は読み返すこと。読み返していれば必ず気が付くはずの、変換ミスやオペレートミスのある作品が、未だに幾つも見られます。またプリンターが給紙の際に数枚まとめて食ってしまったらしい白紙が入っている原稿もありました。応募締め切りぎりぎりに、間に合わせるために読み返さずに送った人もいるかもしれませんが、読み返して訂正する時間まで考えて完成させればいいことです。
プリントアウトで言えば、両面印刷をしていた人がいました。エコという観点からは良いことかもしれませんが、応募原稿は片面印刷が一般的です。またこの人は表と裏で天地を逆に印刷していたので、読み進めにくくて大変でした。両面印刷したいなら、原稿の天地を表裏同じにして欲しいものです。そうすれば、普通の本と同じ読み方ができますから。
内容のみならず、物理的な面でも「読みやすく」するよう努めてください。















