第10回『このミス』大賞 1次通過作品

死体回収のアルバイトに励む学生たち。
隣町の死体が急増したことを怪しく思い、町へ向かうと――。
奇妙な味のダークファンタジー

『愛してムーヴィン 恋してダイヴィン』 はじめひかる

 高校入学を控えた4人組――「ぼく」こと祥一、冴子、信良、花江のアルバイトは、滝から身投げした人々の死体回収。落葉町では老人の“間引き政策”が施行されており、拒否者には投身自殺が認められているのだ。隣町の人間の死体が増えたことを訝った「ぼく」たちは、隣町へ向かう途中で記憶喪失者のグループ「生ハム組」に出逢い、彼らの記憶探しを手伝うことになる。
 粗筋だけではテイストを伝えにくいが、イビツな世界を背景にしたダークファンタジーと呼ぶのが妥当かもしれない。無邪気にインモラルな行為を重ねる子供たちは、人間の死に対する感受性を失っている。「生ハム組」の5人(ひとりはゾンビ)の過去とその処理もひどく退廃的なものだ。アンファン・テリブルの色彩を基調として、キッチュなアイデアを盛りつけた“悪趣味”な物語なのである。
 当初の目的だった“隣町の死人”の謎解きの呆気無さをはじめとして、様々な箇所でとぼけたムードを醸すことで、著者はオリジナルのグロテスクな世界を生み出している。「生ハム団」の真相はいかにも作為的だが、そのナンセンスなまでの記号性もひとつの味に違いない(メインアイデアはミステリ読者とも相性が良さそう)。細かいギャグが総じて不発気味、クールな筆致ゆえにキャラクターが希薄――といった感もあるが、後者はむしろ世界観の一部と見るべきか。狭義のミステリには属さないものの、野心的かつ刺激的なエンタテインメントであることは確かだろう。

(福井健太)

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