第10回『このミス』大賞 1次通過作品

災害により世界が壊滅的な打撃を受けてから13年。
人口知能研究室でプログラム〈ROUTE(ルート)〉が開発され、
災害前の記憶を失っていたプログラム研究員・檜山に異変が起こる…

『ROUTE』 納谷英樹

 全地球規模の災害によって世界が壊滅的な打撃をこうむってから13年の時が経った。歳月が経つ中で、国際連合が中心となって地球保護研究プロジェクト〈EARTH〉も設立されていた。その一環として発足した人工知能研究部門AISにおいて、ある日奇跡のような出来事が起きる。自らの意識を持ったプログラム、〈ROUTE(ルート)〉が誕生したのだ。開発に携わったのは、AISの長であるマーベリックからは期待をされていないルイスの率いるチームである。13年前の〈審判の日〉以前の記憶を持たない檜山亨は、このチームの一員として研究にあたっていた。ルートとコミュニケーションをとっていく中で、檜山は奇妙なイメージが自身の中でフラッシュバックするのを感じる。
 近未来を舞台にしたSF作品である。ルートとは一体何なのか。その誕生によって何が変わっていくのか。そうした興味によって読者は最初引っ張られていくはずである。  やがて状況に変化が起きる。ルートという圧倒的な存在感を持つもののために、チームの人々の運命が狂い始めていくのである。小説の後半ではそうした激動の部分に光が当てられ、檜山とともに読者は世界が変貌していく様子を眺めることになる。大風呂敷を広げたからには畳むのが筋だが、終盤では読者が感じたであろう疑問に対する答えも呈示される。大きな物語を書こうという作者の意図は成功を収めたといっていいだろう。
 苦言を呈するとすれば、世界の描かれ方があまりにも限定的であるということだ。世界規模の変化を経験した社会にしては、描かれている状況はあまりにも現代に近い。研究室という外界からは隔離された場所の出来事だから、という弁護も成立するだろう。しかし読者は、研究室の〈外〉を見たかったはずである。まとまりはいいのだが、読者を楽しませようとするサービス精神はやや欠ける。おもしろく読んだだけにそれが残念だった。

(杉江松恋)

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