第10回『このミス』大賞 1次通過作品

異常性嗜好犯罪者に重傷を負わされたメイガン捜査官。
犯人の出生地で、奇妙な言葉を残して消えた同僚。
単なるサイコ・スリラー、とは異なる怒涛の展開が待ち受ける!

『怒れる樹木のうた』 玉峰新一郎

 メイガン捜査官の任務はウサギ(異常性嗜好犯罪者)狩りだ。だが、二ヶ月前の任務で追っていたウサギに重傷を負わされた。一方、そのウサギの素性を調べていたポーカード捜査官は、見つけ出した彼の出生地──古都ボーダヘッドで消息を絶ってしまった。さらに、男女の四肢のない死体が発見される事件が発生。回復したメイガンはボーダヘッドに派遣され、ポーカードの行方と、新たな殺人鬼〈木樵〉を追う捜査を開始する……。
 外国を舞台にしたサイコ・スリラーとして幕を開ける作品だが、序盤からさまざまな「ひっかかり」が差しはさまれている。地元の人間は、なぜ捜査に非協力的なのか? 失踪したポーカードが残した奇妙な言葉の意味は? メイガンが見る、死体から四肢が生えてくる幻覚はいったい何なのか? 幕間に挿入された、白衣の男と黒服の男の意味ありげな会話は何を示しているのか?
 単に殺人鬼を追うだけの物語ではない。その奥底に、さらに何かが潜んでいる──そんな小説である。物語は、通常のサイコ・スリラーとは異なる展開を見せる。どう異なるのかをここに書き記すわけにいかないのが辛いところだが、読む者の認識を相当に覆すものであることは確実だ。
 物語を構成している文章も、この奇怪なストーリーを紡ぐのに十分な質を備えている。序盤からメイガンが抱き続ける微妙な違和感。中盤に描かれる、古城のパーティのグロテスクな美しさ。あるいは、終盤の奇異きわまりない展開。そうしたものをしっかりと描き出せる言葉は、この作者の持つ大きな強みだ。
 説明不足なところもあるとはいえ、特異な設定とそれを支える語り口は、十分な実力を保証していると考えて、一次通過とする次第である。

(古山裕樹)

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