第10回『このミス』大賞 1次通過作品
猿の面をかぶる天涯孤独のヒーロー「猿王」。
連続殺人鬼やライバルの女ヒーローとの戦闘を繰り広げ、
新宿・歌舞伎町の平和を守る!
『猿王〜哀しき道化師たちの祝祭』 神護かずみ
これはダークヒーローの小説だ。ヒーローの名は猿王。青年・万城正太郎が新宿の地で中国服を着た行き倒れの老人と出会い、猿の面を託された。その面をつけると正太郎は、超人的な力を発揮できるようになるのである。街を荒らす悪党を次々に見つけては退治していく天涯孤独なヒーロー、というあたりはスパイダーマンみたいだ(マーベル・コミックじゃなくて東映版の。老人から変身アイテムをもらった、というあたりも)。この猿王は斉天大聖こと孫悟空の属性を持っており、そのことを活かしたイベントも発生する。
これに敵役やライバルのような存在が配置されている。敵役のほうは殺害の現場にジグソーパズルのピースを残していくことからジグと呼ばれている連続殺人鬼だ。ライバルにあたるのは姫山麻貴という女性である。後天的なヒーローである万城と異なり、彼女の特殊能力は先天的なものである。彼女の家系には代々神下ろしのような能力を持つ者が現れるのである。麻貴はその自分に宿るものをサキと呼んでいる。
これだけでも三つ巴でおもしろくなりそうな予感がするが、さらに癖のある人物が絡み、万城が猿王になる以前の因縁なども人間関係に反映されているため、プロットは実に立体的である。作者はすでに著作がある方だとか。それもうなずけるほど、密度は濃い。最初から最後まで中だるみのない見事な活劇小説である。
文章は歯切れがよくリズム感のあるものだが、前世紀に流行した伝奇アクションの文体そのままで新味がないといえなくもない。舞台を新宿・歌舞伎町に設定しているのも、いささか古い。浄化が進んだせいで、現在の歌舞伎町は野獣が棲息するのには向かない街になりつつあるからだ。新しい酒は新しい皮袋に、の喩えではないが、物語の道具立てはもう少し新しいものを準備してもよかったという気がする。若干の昭和臭が本作の不安材料だ。ただし迫力あるアクションなど美点は多く、娯楽小説として非の打ち所はない。
(杉江松恋)















