第10回『このミス』大賞 1次通過作品

不可解な睡眠状態と、急増する
睡眠障害の患者との共通点とは?
脳と機械を結び治療を開始する矢先、患者が失踪した!

『夢幻臨床』 西條好夫

 主人公・冴木は、自身も不眠症を患う精神科医。病院には彼以外に常勤スタッフの小坂という女性ひとり。そこに、赤羽という患者が受診しに来る。彼は不眠に悩まされ、気絶するように寝てしまうと、今度は奇怪な夢にうなされるという。夢の中では、空から嫌なものが降り注ぎ、腐ったような臭いが充満する。井戸のような穴があり、知人から『あの穴を覗いてはいけない』と言われるのだ。
 そこへ心解研(国立臨床心理解析研究センター)から、睡眠障害の患者が急増していると連絡が入る。冴木は、赤羽の症状との共通点に気付く。赤羽にさらに問診すると、彼は「夢が現実に飛び出してくる」という。それはどういうことか。
 冴木は、脳と機械とを結ぶことによって、患者の脳に自らの意識を投射する「投射療法」を行うことにし、自分も不眠治療に通っている医院に赤羽を預けた。ところが、その医院から連絡が入り、赤羽の身柄を奪われたという。一方では、急増していた睡眠障害の患者たちが、集団で意識不明に陥っていた。果たして今、何が起きているのか……。
「夢と現実」というテーマなど、第9回『このミス』大賞受賞作『完全なる首長竜の日』(乾緑郎)と同傾向の作品だ。「夢に入りこむ」という手法を含め、SF的エレメントも詰まっている(もちろん、果たして真相は何なのか、というミステリー&サスペンスの要素もしっかりある)。なかなかにイマジネーション豊かで、夢の中の描写や、『あの穴を覗いてはいけない』というセリフなど、読んでいてぞくぞくしてくる。一般的な意味での推理小説からは少し外れるかもしれないが、エンターテインメントとして十分に読ませてくれる。
 ……ただ、タイトルだけ、もうちょっと読者の目を惹きやすいものにした方がいいかも、です。

(北原尚彦)

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