第10回『このミス』大賞 1次通過作品

パスポート変造に携わる元警官の主人公が
台湾の重罪犯の密入国に関わったとして逮捕された。
ニューヨークを舞台に繰り広げられる攻防劇

『ALL ABOARD』 龜野仁

 舞台はニューヨークのクイーンズ区。主人公は、元警官だが現在はパスポート変造という犯罪に携わっている斎藤。顧客に商品を渡したところを、ニューヨーク市警の警官たちに逮捕されてしまった。真部という仲間が逃走の足を用意しているはずが、裏切られたのである。
 ニューヨーク市警は、台湾からの捜査官の訪問を受けていた。台湾の重罪犯がアメリカに密入国した形跡があり、それに斎藤が関わっているというのだ。
 警察は、斎藤の持つ情報が喉から手が出るほど欲しい。司法取引を持ちかけられた斎藤は、それに応ずることになった。彼を監視し、かつ保護するのは一〇九分署のポッツ巡査部長。斎藤は情報をDVDロムに保存していたが、仕事場へ戻ってみるとそこは何者かに荒らされ、DVDロムも盗まれていた。そうこうするうちに、クライアントのひとり、台湾マフィアの周からは、監視役として妹のアイリーンを貼り付けられることに。
 DVDロムを巡っての攻防が続く。やがて、真相が解明していくにつれ、斎藤の過去――警官時代の出来事も、明らかとなっていく……。
 異国を舞台としながらも、絵空事に終わらず足に地のついた物語を見事に展開させている。外国、それも実在の土地をきちんと描くことは、とても難しいのだ。またハリウッド映画のようなアクションシーンも、悪くない。作者は十数年のアメリカ生活の経験があるとのことなので、それをうまく生かしたのだろう(ただプロローグだけは、もう少し読者の心を冒頭からつかむようなものにした方がいいかもしれない)。
 贅沢を言えばキャラクター造形にもう少しだけ深みが欲しいところだが、それでも登場人物たちは生き生きと動き回っている(あと、主人公の名前=タカオ・サイトウは、どうしても某劇画マンガ家の名前を連想させてしまう。どうしてもこの名前でなければいけないという理由がないなら、ファースト・ネームだけでも変えては)。
 色々と注文はつけたけれども、一次選考のハードルを軽々と超えたことは保証する。

(北原尚彦)

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