第10回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント
『裁判員のルール』和 剛
『The 生徒会選挙』堀内公太郎
『てんびん座記念日』鈴木沢雉
『君の鳥はうたえる』穂高潤一
『華麗なるレース』村上 暢
膳所善造コメント
最初に一言、皆さん、もっと推敲に時間をかけてください。ここ数回特に顕著なことですが無駄に長い作品が増えてきています。率直に言って800枚という応募規定上限ぴったりの作品で一次選考を通過するレベルの小説には一度も出会ったことがありません。そのエピソードは本当に必要ですか? その設定は? その会話は? 起きたことをすべて書くのが小説ではありません。だらだらと弛緩したメタボリックな作品ではなく磨きに磨いた筋肉質の応募原稿をお待ちしております。
さて、今回残念ながら一次通過には至らなかったものの、光るところのあった作品について簡単に触れていきます。
和剛『裁判員のルール』は、2件の殺人事件に対する裁判員裁判の顛末を2部構成で綴ったミステリです。文章も読みやすく裁判員制度に関する説明もうまく織り込んであり、するすると読み終えることができました。ただし1部と2部とにまたがる一番の大ネタがほとんど隠されることなく書かれているため、登場人物たちが受けるほどには読者に衝撃が伝わらないのが残念でした。あと、根幹にかかわる部分にご都合主義的な設定がある点とキャラクターが類型的な点もマイナスです。ミステリに対するセンスは感じられましたので捲土重来を期待します。
堀内公太郎『The 生徒会選挙』。前回『森のくまさん—The Bear—』で最終候補に残った方の作品だけあって、今回読んだ中でも文章の巧さでは抜きん出ていました。特に会話部分は軽妙で、既存のライトノベル作家の新作といわれれば充分納得する出来です。ではなぜ一次通過作品として推せなかったのかというと、一つには長所がそのまま短所となったためです。幅広い読者層をターゲットとした新人作家のデビュー作として考えた場合、使途不明の部費と生徒会長の座を巡る策謀という設定は、小粒で訴求力に欠けます。また、ラストの捻りは余計です。このオチを加えたことでカリスマ的人気を誇る才色兼備な女生徒の設定がぶれてしまい、物語としても腰の据わりが悪くなっています。
鈴木沢雉『てんびん座記念日』。地球外知的生命体とのコンタクトをはかるための探査機を巡る陰謀劇を、3人の人物を中心に据えて描いた気宇壮大な物語です。設定の新規さもあり面白く読み進めるこことができましたが、真相が判明するにつれ急速に魅力が失せてきました。いい話にしたかったのでしょうが、無理筋な陰謀を巡らした割には話が小さく科学的な背景も説明不足、偶然の多用とご都合主義的な人間関係、重要な位置を占める大学教授の性格のぶれが致命的です。着眼点は面白く、次回作に期待したいところです。
ある意味で、今回もっとも悩ましかったのが穂高潤一の『君の鳥はうたえる』です。エロ事師のトリオが、エロに対して正反対の考えを持つ同業者の挑発に対抗して、究極のエロとは何かを追求する男と女の物語です。文章の巧さ、人物造形の巧みさ、物語展開の面白さとすべて水準をクリアしていました。にもかかわらず推せなかったのは、ミステリとしての興趣が皆無だったためです。力のある方だと思うので、次回はぜひミステリを読ませてください。
村上暢『華麗なるレース』は、19世紀末期にインド帝国の首都カルカッタから英国のリヴァプールまでの航路でスピード・レースが行われたという設定の海洋冒険小説です。各国の参加者たちもやや類型的ですが書き分けられており、航海のシーンも面白いのですが見逃せない欠点がいくつかありました。一つは坂本龍馬を主役にしている点、暗殺は本人による偽装であったとして、彼を生き返らせてまで主役にする意味が感じられませんでした。個性的な有名人を借りてくることで読者に対して物語を身近なものに感じさせる効果はあるでしょうが、これは両刃の剣です。正直、使いこなせているとは言えず、人物造形で手を抜いているという印象が拭えませんでした。また、黒幕による陰謀も既視感に溢れています。あと全体に無駄な描写が多く間延びしています。応募規定を遙かに上回る1000枚の物語とする必然性は感じられませんでした。















