第10回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋氏コメント
『ヒーローになりたい—Who is your Hero?』堀内公太郎
『三半規管のレイディオ』向芝園也
『ブリーフエージェンシー』野村康広
『お蝶、舞う』白石かおる
杉江松恋コメント
私が担当した中では以下の作品に注目をいたしました。
「ヒーローになりたい—Who is your Hero?」
TVアニメに登場する架空のヒーローが現実社会に存在し、児童虐待から子供を救ってくれるという都市伝説が物語の核になります。子供と都市伝説の取り合わせは相性がよく、アニメと児童虐待という明暗の対比もいいのですが、私はこの小説を素材に寄りかかりすぎの作品だと判断しました。題材は小説ならではのものなのに、それを活かすだけの話の展開がない。特にキャラクターの薄さに問題があると感じました。作者は昨年の二次選考通過者です。その際の選評では文章のリズム感を絶賛されました。しかし私はまったく逆の意見です。前回の作品には目を通していませんが、この作品の書き手は自身の文章に甘えすぎだと思います。たしかに軽快に読める文章ですが、読み飛ばしてしまって残るものがない。自分の書きやすい文章で行数を稼ぐことに慣れてしまい、書かなければならないことから無意識のうちに逃げてしまっているのではないか。そうした反省が必要なときにこの作者はきているのではないかと思います。
「三半規管のレイディオ」<
この作品ははっきり言って下手でした。ミステリーとして読んだ場合は構成に難があるし、冗長な文章はもっと刈り込めるのではないかとも思います。ただ、非常にほほえましかった。好きなロックを核にして小説を作りたいという意欲が目に見えるようです。実際、音楽に関する部分とそれ以外では温度差も感じました。好きなことを楽しく書いているのだな、という印象を受けます。書きたいテーマを設定し、それについて極めていくという努力の方向性は正しいと思います。私が読んだ応募作中、もっとも好感を持った作品がこれです。どうか腐らずに努力を続けてもらいたい。あと、老婆心ながらご忠告申し上げますが、この作品で使われているトリックは無茶です。あまりのばかばかしさについ笑いながら読んでしまいましたが、実際の科学捜査には通用しない。ミステリーを書き続けるのであれば、このへんの下調べはもう少しきちんとやりましょう。
「ブリーフエージェンシー」
好感度2位の作品。漫才芸人の二人が売名行為のために探偵をやろうとするという設定は非常にいいものでした。コンビの二人のキャラクターもなかなかに特徴的です。警察官の設定は到底現実にはありそうもないものでしたが、それも書きようでは大丈夫でしょう。要するに、キャラクター小説としてはよい素材を備えていたのですが、肝心の小説の要になる部分が弱かった。ミステリーですから、事件の内容がだめなのです。謎解きの場面にきて小説は急速に失速します。こういうことなら無理に殺人事件を起こすのではなかったのでは、という気さえしたほどです。たぶん、名探偵が事件の謎を解く、という古典的な探偵小説の型がこのキャラクターには合わないのでしょう。コンビ探偵のミステリーは古今東西たくさん書かれています。それらを読んで、彼らに合った型を探されてはいかがでしょうか。
「お蝶、舞う」
主人公に華があり、歴史上の実在の人物がそれに絡み……と、キャラクター重視の時代小説としては文句のない設定でした。しかしどこかで見たような作品という感じがずっとつきまとう。昨今では文庫オリジナルの時代小説も作品数が増え、さまざまなバリエーションの主人公が登場するようになりました。奇を衒っただけの人物設定では、その中で差異化していくのは難しいと思います。作品が主人公の魅力に頼ったものなので、それが色褪せれば必然的に平板に感じられるようになり、読者の興味も失速していく。このキャラクターならではの冒険、このキャラクターならではのロマンス、そういったものが不足していると感じました。















