第10回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也氏コメント
『トリイ・ストーリー』津留浩之
『クラゲくん、星を見たかい?』植田卓真
『暗黒星雲』朝倉渉
宇田川拓也コメント
今回は、一切の迷いなく通過作品を選び出すことができた。といっても心境は複雑で、それはつまり「通過作品と拮抗するほどの作品が、ほかになかった」ということでもある。うむむ。
逆に例年よりもよかった点は、あまりに文章作法のおざなりな作品や、自分の人生を押し付けてくるひとりよがりの困った作品、長々と人生自慢を綴ったプロフィールが減ったこと(皆無ではないのが残念!)。今後さらに、原稿規定をしっかり守った原稿の“質”のみで勝負してくれる方々が増えることを切に願っている。
まだいいたいことはあるのだが、先に“次回作に期待”に触れておくとしよう。
『トリイ・ストーリー』津留浩之は、20年に一度の祭礼を中心に、資金難に陥った神社と祭礼を阻止しようとする寺の“霊”や“式神”を駆使した攻防、神社で奉納相撲を行なうことになった部員たった3人の高校相撲部の苦悩、そして覚せい剤を仕込んだ仏像をめぐる貧乏ヤクザと東南アジア系窃盗団のバトルが絡み合う、ユーモラスなドタバタ劇。アイデアは面白いのだが、話が思うほど弾み切らず、やや痛快さに欠けてしまったのが残念。まず改善すべきは、文章とセリフ回しか。一字下げ、一行空き、……、“”、——、などの使い方が、どうにもちぐはぐなので、ここを整えるだけでも全体の印象が格段によくなるはず。また、ページ毎に“!”が頻出する勢いのいい会話も、もう少しメリハリを利かせたほうが、終盤に向けてグングン盛り上がっていく本作の面白さを、より引き立たせるだろう。物語を創る力は充分にお持ちの方だと思うので、さらなる一気読みの痛快作を心よりお待ちしております!
『クラゲくん、星を見たかい?』植田卓真は、海底国家にまぎれ込んだエスニック雑貨商コンビの大冒険を描いた海洋SF。全体に漂うユルユルとした空気感は気に入ったが、さすがにこれで原稿用紙770枚はチト長い。説明や会話をもう少し引き締めたほうが、海底世界を東南アジア風に彩るアイデアの鮮烈さが増すだろう。また、本作の大きな魅力である童話的な愉しさを考えると、情景をきっちり書き込んでしまうよりも、読み手にイメージ喚起を委ねるような、もっと“余白”のあるアプローチもありなのではないか? 世代を越えて親しまれるような愛らしいSFを、ぜひ引き続き書いていただきたい。
『暗黒星雲』朝倉渉は、合唱団指揮者に届けられた脅迫状と団員の怪死事件を発端にした音楽ミステリ。『さよならドビュッシー』(中山七里)を出した本賞に挑むには、まだまだ文章や仕掛けに練り込みを求めたいところだが、今回読んだ本格ミステリでの応募作品のなかでは、物語のアウトラインの取り方はしっかりしていて好感がもてた。たとえば、どの謎を残しつつ事件を一旦閉じ、そのうえでラストの驚きに結びつけるかなど、そうした方法論は外しておらず、狙いは決して悪くない。また、最後の最後まで衝撃をもたらそうとする旺盛な野心も頼もしく思えた。どうかその意気込みを忘れずに、ふたたび本格ミステリでチャレンジしていただけたなら、うれしい限りである。
さて、冒頭の“いいたいこと”に戻るとしよう。
じつは今回、東日本大震災に言及した作品がいくつかあったのだが、どうにも鼻白んでしまったことを告白しておきたい。なぜかといえば、そのどれもがプロローグやエピローグ、あるいはあとがき(伝えたいことは、ぜひ作中で!)で、取って付けたように軽く触れただけのものばかりだったから……。あまりにも無造作に扱うので、思わず「そりゃないぜ!」と、天を仰いでしまったほどである。
もしも私の目の前にその作者氏がいたなら、問うてみたい。
あなたが震災に対して思うこと、いいたいことは、その程度なのか?
あの軽々しさが、あなたの想像力の限界なのか?
あなたにとって小説とは、こんな薄っぺらにしか現実に立ち向かえないものなのか?
もし、本当に虚構を用いて震災に言及しようというのなら、被災して傷を負ったひとたちの心をも打つくらい大いなる虚構でなければならないはずだし、それこそが真に“すごい!”といわれる“ミステリー”ではないのか?
もっともっと訊いてみたいことは山のようにあるのだが、とにもかくにも、こんな小手先のポーズで、われわれ選考委員の共感を得られると思われてしまったことが、ひどく哀しくて仕方ありません。
これからご応募を考えていらっしゃる方におかれましては、くれぐれも同じ過ちを犯さぬよう、お願い申しあげる次第です。
なんだかしんみりしてしまったが、最後は、いつもの言葉で締めますね。
「本屋の店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」















