第10回『このミス』大賞 1次通過作品

演劇コンクール出場を目指して、
演劇部部長と副部長が最高の台本を求めて奔走する!
学校の倉庫から見つけ出した脚本著者はいったい誰?

『駄作のすゝめ』 波名

 いわゆる事件らしい事件はなく、作品の外形だけを眺めてみると、ミステリ味は非常に希薄だ。しかしながら、とにかく心地よく読ませるのである。
 和光高校演劇部は、演劇コンクールへの出場に際し、ダンス部との人気争いで勝たねばならないことになってしまった。争いの舞台は、文化祭である。しかも、校長から演目に冠して制約が課されていた。“オリジナルの未発表作品”でなければならないというのだ。演劇部部長の片瀬と副部長の原は、台本を求めて奔走するのだが……。
 なにより登場人物たちの描写が素敵だ。描き込みすぎず、かといって人間が記号になってしまうこともない。実にバランスよく筆が使われている。
 台詞回しもよい。説明口調ではなく、また、漫画から借りてきたような台詞でもなく、きちんと小説の言葉になっている。しかもちゃんと若やいでいる。
 物語は、片瀬と原を中心とした演劇部の面々が、演劇コンクール出場を目指して次々と降りかかる難題を切り抜けていくかたちで流れていく。このストーリーが魅力的な文章と魅力的な人物で描かれているので、それだけで十分愉しく読み進んでいけるのだが、謎も用意されている。片瀬たちが上演を決めた“ヒカリノコ”という脚本は、実は学校の倉庫で見つけ出したものであり、作者不詳だったのだ。一体誰の脚本なのか、という謎が用意されているのである(詳述は避けるが二重底で用意されている)。そしてその謎を追っていくと、秘められた過去が浮かび上がるという構造となっている。
 というミステリ的興味もあるのだが、終盤では、演じることへの登場人物たちの強烈な想いが読者の心をしっかりと捉えてしまう。それが作品の魅力でもあり、ミステリの新人賞への応募作としての弱点でもあるのだが、この青春小説は、それでもなお二次選考に推したくなる力を備えていた。

(村上貴史)

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